兵庫県立農林水産技術総合センター

センター雑感

当センターの各部署が順に担当して、季節の風景や出来事など様々な話題を紹介します。
 今月は 畜産技術センター家畜部 課長 岩本英治が担当します。
 米メディアが選んでいます「世界で最も高価な9種類の食べ物」。ここにキャビア、フォアグラ、白トリュフらと共に「KOBE BEEF」は選ばれています。牛肉で選ばれているのは神戸ビーフだけですので、言いかえれば、世界で最も美味しい牛肉は神戸ビーフということになります。また、オバマ元米大統領が来日した際、外交ルートを通じて日本側に「神戸ビーフが食べたい」との希望を伝えたそうです。海外から賓客が来日する場合、宗教上の理由やアレルギーなどで「食べられない物」があるかどうかを尋ねるようですが、食べられないものではなく、食べたいものを伝えてくるのは異例のことだったようです。こうしたエピソードを聞くと、海外での神戸ビーフの美味しさの知名度が非常に高いことがわかります。
 一方、国内での神戸ビーフの知名度はどうかと考えますと、ご存知いただいている方は多いとは思いますが、他のブランド牛肉、例えば「松阪牛」、「近江牛」、「飛騨牛」、「米沢牛」、「宮崎牛」、「鹿児島牛」・・・こうした多くのブランド牛肉の一つとして認識されている、というのが実際のところではないでしょうか。今回は、「神戸ビーフ」の素となってその美味しさの鍵を握る但馬牛の秘密についてお話ししたいと思います。
 今からおよそ700年前の延慶3年(1310)に、寧(ねいの)直(なお)麿(まろ)という人が「国(くに)牛(うし)十図(じゅうず)」という書物を書いています。当時、全国で特に資質の良い牛10頭を選び、絵入りで特徴まで捉えて書かれた最初の書物です。そこに但馬牛も選ばれていますが、次のように解説されています。
 「但馬牛 ほねほそく宍(しし)かたく、かはうすく、腰(こし)背(せ)まろし、つの蹄(ひづめ)ことにかたく、はなのあなひろし、逸物(いちもつ)おほし」
 現代仮名遣いに直しますと、次のようになります。
 「但馬牛 骨が細く、体が締まっている。皮膚は薄いが、腰骨や背骨は出ていない。角と蹄の質がとりわけ緻密で硬い。鼻や口を含む口先が大きい。良牛が多い」
 「口先が大きい」というのは飼料効率が良いという意味のようです。また、「逸物(いちもつ)おほし」という記述は他の9頭にはなく、当時から但馬牛は、とりわけ資質が良かったことが伺えます。
 現代の但馬牛(うし)の特長をみてみますと、優れた肉質と、その強力な遺伝力を持つこと、小型ではありますが、骨細で、皮膚は薄く、弾力とゆとりがあって、品位に富み、体の締まりが良いことがあげられます。また、神戸ビーフの特長をいいますと、美しい大理石模様の霜降り肉で、サシが細かい。さらに、脂肪の質が良いため舌触りがよく、食べた時の甘い香りが強い。骨が細く、皮下脂肪や筋間脂肪などの無駄な脂肪が薄い(肉の部分の比率が高い)などです。こうした点をみますと、但馬牛は700年前の特長を現在もなお脈々と引き継いでいることがわかります。これは、但馬牛が他県の牛との交配を行わず、兵庫県だけに存在する但馬牛のみで改良する「閉鎖(へいさ)育種(いくしゅ)」という方法をとっているからです。このことが、全国の他のブランド牛肉と大きく違うところです。
 「閉鎖育種」を選ぶことで、育種改良上の自由度が大きく制約されますが、私たちは但馬牛の純粋性を保つために、敢えてこの方針を続けながら、但馬牛の美味しさについての研究を行っています。そして最近の研究成果として、但馬牛は脂肪の口解けや舌触りを良くするオレイン酸や咀嚼した時に感じる甘い香りをもたらすラクトン類などが他のブランド牛肉に比べて多いことを明らかにしています。これらの成果は、これまで経験的に伝えられてきた但馬牛の美味しさを科学的に説明できることに加えて、さらに美味しい但馬牛への改良につながるものと考えています。これからも世界の宝である「神戸ビーフ・但馬牛」に携われる幸せと使命感を持って研究を続けていきたいと思います。

但馬牛


神戸ビーフ
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