私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は企画調整・経営支援部 専門技術員 松田 喜彦が担当します。

集落営農組織の経営管理に関する調査研究

1 ねらい

既存の集落営農組織が地域の持続的な担い手として機能するためには、収益が確保され、経営として安定している(収益性)、集落のみんなから認知され、全員の参画で運営されている(社会性)、認定農業者等と相互に補完する関係があり、且つ組織の後継者が育っている(継続性)の3つの条件を兼ね備えた組織であることが求められています。経営のステップアップを図る上では、3つの要素をバランスよく兼ね備えながら組織運営を行っていくことが必要と考えられます。

そこで、県立農林水産技術総合センターで開発された「集落営農経営管理チェックリスト」を用いて、県下の先進的な集落営農組織のリーダーを対象にヒヤリング調査を実施し、集落営農組織の運営に関するリーダー群の考え方を中心に整理し、今後ステップアップを図るうえで、望ましい組織運営の方向性について検討を行いました。

2 調査研究の方法

(1)調査対象

集落営農組織(農事組合法人)5組織

(2)調査対象の概要

調査対象は、一部を除いて水稲低コスト12000実証事業に取り組んでいる集落営農組織であり、生産コスト低減に関して積極的な取り組みを展開しています。

  1. A集落営農法人:組織設立後16年経過。法人化10年目。水稲中心。
  2. B集落営農法人:組織設立後11年経過。法人化5年目。水稲中心。
  3. C集落営農法人:設立後25年経過。法人化15年目。水稲中心。
  4. D集落営農法人:設立後8年経過。法人化4年目。水稲中心。
  5. E集落営農法人:設立後6年経過。法人化1年目。転作中心。
    1. (3)調査内容

      調査項目は、組織の理念・方針、リーダーシップ(5項目)、農地の確保(4項目)、組織体制・人材確保(9項目)、投資判断(3項目)、経営診断・資金運用方針(7項目)、作目・技術の選択(7項目)、地域との関わり(5項目)、環境(2項目)、農政(1項目)の9分野43項目。その他組織運営の特徴等。

      (4)調査方法

      加古川・光都・豊岡・丹波普及センターの協力を得て、組織代表及び役員等に対してヒヤリング形式による聞き取り調査を行いました。全項目の聞き取りを行うためには、約2時間程度要し、調査項目から派生する運営上の具体的な実態についても聞き取りました。

         

      3 調査結果

      (1)具体的データ

      調査シートに基づいて、各設問の点数を得点率として5つの指標でチャート化したものが下図のとおりです。なお、平均値は、県内平均的な集落営農組織9組織を含めた平均としています。

         

      (2)各組織に共通する要因

      それぞれの集落営農組織の特長を踏まえ、共通点を挙げると下記のとおりです。

      ア 強みの共通事項

      (ア)組織力
      • 組織の理念、方針を組合員全員に周知しようと努力している。
      • 年間の営農目標や経営目標を明確に位置づけ、定期的に活動を見直している。
      (イ)経営力
      • ほ場の団地化、面的集積、受託条件の提示を明確にしている。
      • 機械の計画的更新、経営面積に応じた機械導入を行っている。
      • 簿記記帳、品種ごとの生産方式や品種毎の生産管理費等を把握している。
      • 経営改善を積極的に行っている。
      • 総会で経営の業績を広く公表している。
      • 最悪の事態を想定した対応を考えている。
      • 事業制度の情報収集に積極的である。
      (ウ)継続性
      • 若手・女性の役員への参画を考えている。
      • 組合員の作業能力や特技を把握し、適材適所の労務管理を行っている。
      • 労災保険に加入している。
      (エ)技術力
      • 新規作物の導入を役員間で検討している。
      • 技術導入は組織内で検討している。
      • ほ場毎の作業実施や使用資材・量などの実績を記録蓄積している。
      (オ)社会性
      • 関係機関の行事やイベントに積極的に参加している。
      • 集落内において交流活動に取り組んでいる。
      • 組合が地域の農地の維持管理、環境づくりに参画している。
      • 環境に配慮した栽培方法に取り組んでいる。

      イ 弱みの共通事項

      (ア)経営力
      • 利益の使途について十分な協議ができていない。
      (イ)技術力
      • 栽培上の生産目標を設定し、そのことを出役者、組合員に十分に周知できていない。
      • 生産状況や成育ステージの実態が十分に把握できていない。
      (ウ)社会性
      • 農業以外の異業種との交流ができていない。
         

      4 考察

      チェックリストを活用したヒヤリング調査を通して、組織の運営状況、リーダーの組織運営に対する意識を理解するとともに、関係機関と共有することができました。

      20年以上継続する営農組織に共通する点は、すべての項目において平均点(14組織平均)以上を得点しており、項目間のバランスも良い状態でした。

      地域間では大きな得点差はみられなかったものの、経営の内容によって、水稲を中心とした集落営農組織では、組織力、社会貢献力、継続力が高い傾向が見られました。このことは、水稲経営は集落農業のベースであり、組合員全員に係わる課題であって、営農活動を中心に集落の活性化に向けた幅広い活動が展開されている結果と考えられます。一方で、転作中心の組織では、水稲作業では補完的な役割であり、集落全体に係わる要素が低いと考えられます。転作作物については、栽培技術面における技術導入が進んでおり、低コスト化に向けた経営力が高い傾向が見られました。

      組織設立後の経過年数でみると、継続年数が長いほど総得点が高く、バランスもよい傾向が見られました。このことは、経営改善に継続的に取り組み、弱みを克服しながら、強みを伸ばしてきた結果と考えられます。

      リーダーの意識として、全体的に得点率の高い集落営農組織では、営農活動を中心に地域活性化への活動を展開しており、農業の担い手としての位置づけとともに、地域(集落)の担い手としての人材育成を視野に入れた活動が展開されています。

      チェックリストを活用して意識を数値化することにより、集落営農組織の強み、弱みを客観的に把握することが可能となり、組織のリーダーが今後の組織運営における新たな課題に“気づく”ことにより、経営の改善へと発展することが期待できます。

      5 今後の課題と普及上の注意点

      ヒヤリング調査に当たっては、2時間程度有するため、余裕を持って聞き取りのできる時期を選定することが大切です。また、可能な限りリーダーを含む複数の役員参加のもとに行うとともに、得られた結果についても役員等で共有することが望ましいでしょう。

      また、2~3年後に同様の調査を行い、組織の経営発展の状況を“見える化”することで、活動の振り返りと新たな課題解決へのステップアップにつなげていくことができます。

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