センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 総合センター次長(技術調整担当)柳田 興平 が執筆しました。

5月20日、豊岡市百合地の人工巣塔でコウノトリのヒナの孵化が確認され、国内では43年ぶりの出来事として全国的に大々的に報じられましたが、地域をはじめ関係者の地道な取組みに敬意を表するところであり、このヒナが無事に巣立つことを願っています。

コウノトリは、国の天然記念物であり、昭和40年には兵庫県の県鳥となっていますが、国内最後の生息地である豊岡市で同年から人工飼育が開始され、保護・増殖が続けられて現在では、県立コウノトリの郷公園と保護・増殖センターで100数羽が飼育されているほか、平成17年9月に自然放鳥された4羽を含め、10数羽が野外に放たれています。

同公園では、①コウノトリの種の保存と遺伝的管理 ②野生化に向けた科学的研究と実験的試み ③人と自然の共生できる地域環境の創造に向けての普及啓発 を基本的機能とし、コウノトリの保護・飼育・増殖・野生化に向けての研究や環境づくりの事業に取り組まれていますが、当センターでも環境創造型農業を推進している立場から側面的な協力・支援を行っています。

ところで、当センターでは、農林水産業や食品産業の生産力や生産性の向上、県産品の品質向上、環境保全等消費者や生産者のニーズに直結した様々な試験研究を実施していますが、平成14年度の組織再編以降、農林水産各分野が横断的に連携して技術開発に取り組んでいくプロジェクト研究を進めており、本年度からの新たな課題として『「コウノトリ育む農法」支援技術の開発』にも取り組んでいます。

この課題の背景としては、自然と人間の共生への認識が高まっている中で、コウノトリの野生復帰事業が着々と進んでおり、豊岡盆地ではコウノトリが生活できる水田生態系の実現を目指した「コウノトリ育む農法」が推進されていますが、有機・無(減)農薬で水稲を栽培する同農法は、有機資材を利用することから、育苗や肥効、冬季・長期湛水と中干し延期による土壌還元の進行、農薬を使わないことによる雑草の多発、イネミズゾウムシや斑点米カメムシによる収量・品質の低下などの技術的な課題も多く残っています。

このため、センター内に設置した「環境創造型農林水産技術支援チーム」が主体となり、「コウノトリ育む農法」における上記のような種々の技術的課題を解決し、現地における実証を基に技術的基盤を確立して生産の安定を図ることといたします。

また、朝来市にある内水面漁業センターでは、「コウノトリのエサづくり」としてドジョウのDNA検査による豊岡産(円山川水系)のドジョウ養殖の研究にも取り組んでいるほか、ドジョウなどのエサが水路から水田へ移動できる魚道の整備等の技術支援も行っています。

豊岡市を中心に但馬地域では、地域を挙げて「コウノトリ翔る郷づくり」に取り組まれていますが、これをモデルとした「生き物と共生する農業」である環境創造型農業については、他の地域での取組みについても、一層の技術支援を行ってまいりたいと思っております。