センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 森林林業技術センター所長 三尾 公男 が執筆しました。

“年の始めの例とて 終わりなき世のめでたさを 松竹たてて門ごとに 祝う今日こそ楽しけれ”
 これは、お正月になるとよく聞こえてくる『1月1日』の一番の歌詞です。ここに出てくる松や竹は門松のことを指していますが、松や竹、それに梅は縁起物としておめでたい時によく使われます。

何故松や竹が縁起の良いものなのか調べて見ますと、松も竹も1年中青々とした緑を保ち、松は寿命が長いことから平安時代に不老長寿の象徴となり、節目正しく真っ直ぐと成長する竹は室町時代に生命力・繁栄の象徴として慶事を表す代表の一つとして使われるようになったというのが定説のようです。

古の時代に松や竹が日本の国土にどのように分布していたのかはよく分かりませんが、痩せ地や乾燥気味の土地を好む松は、水田の増加や都市化の進展による周辺の森林の裸地化によりアカマツは内陸部、クロマツは海岸部を主体にその分布を拡大していきました。また、縄文の時代から日本人の生活に密接な関わりを持っていた竹は、マダケやハチクが有用竹として利用されていましたが、それに加えて江戸時代に中国から入ってきたと言われるモウソウチクが筍としてとてもおいしいことからその分布を拡大したと言われています。

私たちの暮らしは、少し前までは自然と向き合い、自然に感謝しながら営まれていました。とりわけ松や竹は里山を構成する重要な要素であり、適切な管理のもとで人々の生活に恵みをもたらすとともに、人々の心に少なからず影響を与えてきました。

その松や竹が、21世紀の今、自然の中でどうなっているのでしょうか?

高度経済成長とともに始まったいわゆる燃料革命や肥料革命、機械化といった流れは、人々の暮らしを自然から切り離し、自然との関わりを希薄化させる日常生活へと大きく変えてしまいました。加えて、松くい虫による被害が減ってきてはいるものの、連年の被害により兵庫県下の松の量は減少していますし、逆に手入れ不足から竹は拡大する傾向にあり、農村の原風景と言われた里山の姿は以前とは大きく変わりつつあります。

そうした中で、本県では、平成19年10月22日に松くい虫(マツノザイセンチュウ)に強度の抵抗性を持つアカマツ品種「播磨の緑」をアカマツでは全国で初めて品種登録し、今後、修景緑化用として普及していく予定です。また、竹林を適正に管理するための現況調査や利用可能性を検討する取組が県下の一部の地域で始まっています。こうした研究や活動が里山の再生はもとより、松や竹が人々に与えてきたイメージの回復へのきっかけとなればと期待しております。