センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 森林林業技術センター所長 松田 博文 が執筆しました。

昨年は、食品への異物混入、中国四川の大地震、北京オリンピックの開催、サブプライムローン問題に端を発した世界金融危機、米国大統領選挙などめまぐるしく、激しい状況変化がおこりました。
 その中にあって、杜甫の春望「国破れて山河在り 城春にして草木深し・・・」ではありませんが、森林はそれほど変わらずに存続しています。
 近年、森林は、木材の供給だけでなく、水源かん養をはじめ、COの吸収など地球温暖化防止等にも対応し、心身の癒しや安らぎなど多面的な機能に対する期待が大きくなってきています。皆さんの身近にある森林=里山も四季の移ろいのなかで、森林林業技術センターでは、森林の多面的機能(森の恵み)がより多く発揮できるよう試験研究や調査を行うとともに、成果の普及を行っています。

昭和30年代前半までは、薪や木炭などの燃料として使ったり、独自の利用を行うことで里山の自然、生態はほとんど変わらずに農山村の原風景や地域の文化として長い間継承し続けてきました。それが高度経済成長により石炭、石油、ガスなどの化石エネルギーに転換されたことと、化学肥料の利用等によって、落葉、落枝、下草を採取する必要がなくなってきたのです。そのことによって、近くの住民が里山に入ることが少なくなり、住民が利用することによって維持されてきた里山は、今では蔓や枯れ枝であふれたブッシュ状態が大半となってしまいました。
 そのような森の変化(危機)に対して、兵庫県では平成6年度から「ひょうご豊かな森づくり憲章」を提唱し、森林を県民共通の財産であるとの理解のもと、森林整備の公的関与の充実、県民総参加の森づくりの推進を基本方針に①森林管理100%作戦、②里山林の再生、③森林ボランティア育成1万人作戦を進めており、徐々にではありますが、地域の里山が蘇りつつあります。

しかしながら、里山を昔のように持続的に管理していくには、事業により山の手入れを行うこと以外に人が山に定期的に入っていくような仕組みづくりや里山に魅力がないと続かないのではと考えています。
 今、重要なことは、昔と同じでなくとも新しい社会状況における「人と森林との新しい関係」を構築していかないと、高まってきている水源かん養や野外レクリェーションの場の提供など多様な森林の機能を人間が子孫の世まで受け続けていくことは難しいのではないでしょうか。

当センターでは、その対策の一つとして、里山での効率的な施業(下刈りや間伐などの手入れ)の方法や里山に入るのが楽しくなるようなきのこ(ホンシメジ)を栽培する方法など、親しみと魅力ある里山との関わりについての試験研究に取り組んでおり、その成果は森林所有者や森林組合、森林ボランティアの人たちを対象とした研修を行うなどを通して普及しています。そのほか、災害に強い森づくりに向けた森林の管理技術や森林病害虫対策、県産木材の利用を進める技術についての試験研究、さらには、森林・林業・木材に関する調査や技術研修、各種相談を行っています。
 また、開かれた試験研究機関をめざして、研究成果発表会をはじめ広く研究成果や施設内容を知っていただくための公開デーや森林林業フォーラムなども開催していますので、森林・林業・木材に興味をお持ちの方は是非当センターにご連絡いただければと願っています。

里山でのきのこ(ホンシメジ)栽培研修会

若いアカマツ林内でのホンシメジ栽培

森林林業技術センター公開デー(木工クラフト)