センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 水産技術センター所長 反田 實 が執筆しました。

今回は水産技術センターからノリ養殖について紹介します。

ノリと言えば、コンビニのおにぎりや節分の巻きずしなど、普段からなじみ深く私たちの食生活にとけ込んでいます。しかし、ノリがどのようにして作られているのかは、あまり知られていないのではないでしょうか。一般的にノリの種類としてはアサクサノリが有名ですが、兵庫県に限らず現在養殖されているノリのほとんどはスサビノリという種類です。かつてはアサクサノリも多く養殖されていましたが、生長が遅い、病気に弱いなどの理由で、今はごく僅かの地域で養殖されているのみです。ノリ養殖の本格的な作業は9月から始まります。まず、目合いが20cmぐらいの20×1.8mの網(これを1柵と言います)にノリの種を付着させます。この作業を採苗(さいびょう)と言い、水車のような装置を使ってほとんどが陸上で行われます。種のついた網は一旦冷凍保存されます。そして、10月中頃、水温が23℃以下になってから、この網を海面に張り、種が発芽して1~3cmぐらいに伸びたところで再び網を回収し冷凍庫に保存します。この作業を育苗(いくびょう)と言います。このようにして冷凍保存すれば、数ヶ月後でも、網を海に再び張ればノリは生長を再開します。本格生産のために最初に網を海に張るのは11月下旬頃からです。これを本張り(ほんばり)と言います。本張り後のノリは1週間で10cm程度伸びますので、だいたい1週間間隔で刈り取りが行われます。刈り取り作業は機械化されていて、もぐり船と言う、特殊な船が使われます。ノリの生産は地区により違いがありますが、長いところでは4月いっぱいまで続きます。刈り取りを繰り返しますと、ノリの葉が厚くなって製品の品質が落ちてくるので、二期作と言って、漁期途中で冷凍保存しておいた網に張り替える地区もあります。

今述べたのがおおまかなノリ養殖のカレンダーです。養殖期間中、ノリ漁業者は手のこごえる早朝からほとんど休み無く働き詰めです。でも、沖に出る時間が長く、手間を掛けるほど良いノリが収穫できると言います。漁業と言うと網を曳いて海から魚を獲ってくるだけと思われがちですが、ことノリ養殖に関しては陸上の作物栽培にも勝るきめ細かい栽培管理が行われているのです。

兵庫県のノリ養殖はかっては生産金額が200億円を超え、生産枚数、金額とも全国一を誇っていましたが、近年は色落ちという非常に大きな問題が発生し、生産は減少傾向にあります。ノリは黒くて艶のあるものが美味しくて高い価格で売れるのですが、最近は海の環境の変化で、ノリの色あせ現象(これを色落ちと言っています)が頻繁に起こるようになってきています。ノリも植物ですので、陸上の作物と同様に窒素や燐などの栄養成分が必要なのですが、最近は海水中の栄養成分、特に窒素が減ってきてしまい、そのため色落ち現象が生じているのです。かつて瀬戸内海は赤潮が多発し、富栄養化が問題となりました。その後、各方面の取り組みによって次第に環境は改善され、最近は見た目にもきれいな海になってきました。しかし、一方で海の生産力が落ちてきたのではないかという声も聞かれるようになってきました。ノリの色落ちもその表れではないかと思っています。きれいな海と豊かな海のバランスをどのようにとっていくかが、これからの大きな課題です。難しい課題ですが、水産技術センターとしても豊かな海の再生を目標に、様々な分野の力を結集してこの問題に取り組んで行きたいと考えています。

採苗作業風景
育苗風景
ノリ網
ノリの刈り取り風景(もぐり船)