センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 総合センター次長(技術調整担当)兼畜産技術センター所長 渡邊 大直 が執筆しました。

農林水産技術センター本館の窓から眺めると、赤いツツジが満開の花を競い、木々は新緑に覆われ、さわやかな風が渡る畑には刈り取りを待つ麦が黄金色に色づいています。
 飼料畑の向こうに銀色のタワーサイロがそびえ、その横に赤い屋根の種雄牛舎が見えます。種雄牛舎の周りには、人工授精棟、肥育牛舎、繁殖牛舎があり肉用牛ゾーンを形成しています。肉用牛ゾーンから道を隔てて東には鶏舎、川を隔てた西には豚舎があります。
 畜産技術センターは、これらの施設で兵庫県の畜産を支える技術開発を行うとともに、家畜の改良および人工授精用精液や種畜の供給等の事業にも取り組んでいます。
 兵庫県の特産物のひとつで世界的にも有名な神戸ビーフは但馬牛(たじまうし)を育ててつくります。但馬牛も兵庫県の特産物で、古くは鎌倉時代にかかれた「国牛十図」という書物にもその名があり、黒毛和種という品種に含まれます。但馬牛が兵庫県の特産といえる所以は、他県の血統を交えないで、但馬地方に起源する牛だけで改良を積み重ねてきたところにあります。ちょっと小ぶりですが、肉のきめが細かく、小ザシと言われる細かい霜降りがはいるのが但馬牛の特徴です。

左:神戸ビーフの枝肉、右:最高級の神戸ビーフ

兵庫県で生産される但馬牛は全て、畜産技術センターで飼育する種雄牛の子供たちです。種雄牛はその遺伝能力により、子牛や牛肉のできばえを大きく左右するので、但馬牛生産農家の経営安定と消費者の皆さんに良質でおいしい牛肉をお届けするためには、常に能力の高い種雄牛をそろえ、近親交配をさけるため、血統的にもバラエティーを保つことが求められます。
 現在、県下で生まれた雄子牛の中から選び抜かれた牛を、さらに肉質や増体能力を判定する産肉能力検定で篩いにかけて選んだ、但馬牛生産農家に精液供給する基幹種雄牛12頭、検定結果がでるのを待っている待機種雄牛21頭を飼育しています(写真3)。写真4は、家畜改良増殖法に基づき人工授精用精液を供給する種雄牛としての適性を検査する、種畜検査を受検している模様です。

左:種雄牛舎と種雄牛、右:種畜検査

また、但馬牛は、牛肉に含まれるモノ不飽和脂肪酸やイノシン酸が多い特徴があります。モノ不飽和脂肪酸は脂肪に含まれ、牛肉の風味を良くし、イノシン酸は筋肉に含まれ、鰹節などに代表される旨味成分で、神戸ビーフのおいしさにつながっています。畜産技術センターでは但馬牛、神戸ビーフをもっとおいしくするために、育種改良と飼育方法の両面から牛肉の旨味成分を高める研究に取り組んでいます。また、従来モノ不飽和脂肪酸は材料を研究室に持ち帰り分析する必要があり、枝肉取引の現場で確認することができませんでした。そのため、近赤外線分光装置を牛脂肪評価に応用する研究を行い、枝肉取引の現場で、モノ不飽和脂肪酸の測定を可能にしました。その結果昨年から、神戸中央卸売市場で月1回開催される「但馬牛の日」でモノ不飽和脂肪酸含量が最も多い枝肉に「脂肪の質賞」が交付されるようになるなど、徐々にですが流通においても反映されるようになりました。

図 肥育牛の生産県別モノ不飽和脂肪酸含量