センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 北部農業技術センター 所長 佐々木 孝 が執筆しました。

但馬牛・神戸ビーフのブランド力

県立農林水産技術総合センターの役割の大きな一つとして、農産物の産地育成及びブランド化への支援があります。ひとことでブランドといいましても、世界に通用するものから、ごく狭い範囲でのみ脈々と引き継がれているものまで含めると、全国津々浦々あるいは世界各地には数えきれないくらい多くのものがあります。

ブランドの育成に関し、当センターが強く関わっている但馬牛、あるいはそれから生産される神戸ビーフを例にとりますと、つい3~4年前までは、但馬牛の子牛価格は全国でビリ争いをしていました。といいますのも、但馬牛は小柄であるが故に肉の量が多くとれないことから、肥育効率のいい他県産の後塵を拝することになり、歯痒い思いをしていました。ところが最近、本県以外の和牛肉は、どんなに見た目の品質がよくても、実際に食べてみると風味がない、口の中でとろけるような食感がない、やはり美味しいのは但馬牛だ、という風評が消費者や食肉業者の間で瞬く間に広がり、それまでビリであった但馬牛子牛価格が一気にトップに返り咲きました。もともと純粋但馬牛は味では絶対に負けないという自負がありましたが、世間では正しい評価がなされず、生産者も関係者も意気が上がらない状況がしばらく続いていました。

1988年に貿易不均衡是正策の一環として牛肉及びオレンジの輸入自由化が日米で合意され、1992年に牛肉の完全輸入自由化が実施されました。我が国の和牛肉生産はその前後に全国の殆どの産地が、それまでの量的生産拡大から質の向上へと大きく舵を切り替え、高級輸入牛肉(ホテル向け牛肉等)に対抗しようとしました。その手法のうちの太宗を占めるものが、世界一の肉質を誇る但馬牛の血をそれぞれの地域の和牛に注ぎ込んで改良を進めるということでした。体格のいい牛に肉質のいい但馬牛を混血させる、いわゆる雑種強勢という方法で肉質の改良が進められ、殆どの県でサシ(脂肪交雑)がよく入り、肉量もとれる和牛が生産されるようになり、その後、多くのブランド牛肉が生まれました。
 しかしながら、前述しましたように、それらのうち多くの牛肉は見た目には十分にサシが入り、とても美味しそうに見えるのですが、実際に食べてみると、見た目よりも味が落ちる、但馬牛が持つ独特の美味しさにはかなわないというのがもっぱらの評価でした。

この話を裏打ちするような出来事が、今まさに起こっています。といいますのも、昨年のアメリカに端を発します世界同時不況発生後も、他県産の子牛や牛肉価格が暴落するのをよそ目に、但馬牛や神戸ビーフは余り値を下げずに今日に至っています。このように、大きな下げ要因があっても値が下がらないというのが本物のブランドでありまして、ここにきてやっと但馬牛も神戸ビーフも名実ともに本物のブランドとして認められました。

ブランドは一日にしてならずで、今後とも牛肉以外の分野でも、全国に、世界に通用する本物のブランドを作り上げることを目指して、我々農林水産関係者はたゆまぬ努力を続ける必要があります。
 なお、昨年度の「丸福土井」や「丸宮土井」に引き続き、今後活躍してくれるものと期待されます新たな基幹種雄牛「菊西土井」「鶴神土井」「茂広波」の写真を掲載させていただきます。生産者の皆さん、但馬牛や神戸ビーフの一層のブランド力強化に是非ご活用ください。また、消費者の皆さん、是非一度神戸ビーフをご試食ください。よろしくお願いします。

      期待される新たな基幹種雄牛