センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 水産技術センター 増殖部長 上田 賀茂 が執筆しました。

ノリ養殖と二枚貝類の増殖対策研究

今回は、「ノリ養殖と二枚貝類の増殖対策研究」に関して紹介します。
 兵庫県の瀬戸内海側は、ノリ養殖が盛んで全国でも有数の産地であり、ノリ養殖は、本県瀬戸内海側の漁業生産金額の約4割を占める基幹漁業となっています。
 兵庫県におけるノリ養殖は、水温が19℃未満に下がる11月下旬以降に生産(本張り)が開始され、地区によって違いますが、長いところでは4月まで続きます。今まさにノリ養殖シーズンまっただなかということになりますが、海岸沿いを走る電車の窓越しにも、ノリ養殖漁場が広がり、もぐり船を使ってノリの刈り取り作業をする風景が見られます。
 今漁期のこれまでのノリ生産状況については、漁期初め水温が例年より高く推移したことや12月下旬以降の寒波の影響で刈り取り作業ができなかったことなどにより、例年に比べ生産枚数が減少していますが、1月中旬時点では、安定した生産が続いています。

左:ノリ養殖(浮き流し式養殖)、右:もぐり船による刈り取り作業

さて、本県のノリ養殖業は、浮き流し式養殖技術や冷凍網技術の普及などにより、大きな発展をとげてきましたが、1995年頃以後は、毎年のようにノリの色落ちが発生し、年によっては、ノリ生産に大きな影響を与えています。
 ノリの色落ちの原因は、ノリの生育に必要な栄養塩の不足によるものとされています。海水中の栄養塩濃度は、長期的に見ると減少傾向にあります。この要因の解明については今後様々な分野からの検討が必要であると考えていますが、ノリ養殖時期に大型珪藻プランクトンが大量発生して栄養塩が急減し、ノリの色落ちが進行することが多く、毎年、ユーカンピア等の大型珪藻の発生が気になるところとなっています。ユーカンピアが一旦大量発生すると、海水中の栄養塩を消費し尽くしてしまいます。

そこで、水産技術センターでは、ノリ養殖時期に栄養塩濃度の動向やユーカンピアの発生状況等についてホームページで情報発信するとともに、長期対策として二枚貝類の増殖対策研究に取り組んでいます。「なぜ、ノリの色落ちから二枚貝に話が行くの?」と思いになるかもしれませんが、実はこういうことからなのです。
 アサリやウチムラサキなどの二枚貝類は、珪藻などを餌として成長し、アンモニアなどの栄養塩を尿として排出しています。
 したがって、二枚貝類は、ノリの色落ちを防止し、健全な漁場環境の維持にも重要な役割を果たしていると考えられています。
 しかし、近年では、その資源量は激減しており、資源復活が望まれています。皆さんはウチムラサキという貝をご存じでしょうか。ウチムラサキは、「本荘貝(ホンジョガイ)」と呼ばれ、播磨町の地名がつくほどに、かつては東播磨地域で大量に水揚げされていました。1960年代には兵庫県で約1,000トン漁獲されていましたが、1990年代には、ほとんど漁獲されなくなりました。アサリの減少も本県のみならず全国的に著しいものがあります。
 こうしたことから、水産技術センターでは、ウチムラサキ増殖技術の開発やアサリの中間育成技術の開発などの調査研究を進めています。これら二枚貝の増殖は、漁業資源としての利用はもちろんのこと、過度な植物プランクトンの発生を抑制したり、冬季の栄養塩濃度の改善に効果をもたらし、さらには漁場環境、瀬戸内海の再生につながるものと考えています。

左:ウチムラサキ、右:ウチムラサキ浮遊幼生