センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 畜産技術センター 家畜部長 冨永 敬一郎 が執筆しました。

今年は天候不順のため、さくらの満開と同時に雪の便りが聞こえてきます。4月は日照時間が短かく、しかも低温のため、農作物、特に野菜のできが悪く、市場では平年の2倍も3倍も高くなっています。畜産では4月20日に宮崎で口蹄疫が発生し、県内では侵入防止のための最善の措置がとられています。農林水産技術総合センターでは、牛と豚を飼育していますので、見学等は全てお断りして、畜舎への部外者は言うまでもなく関係者についても立ち入りを極力制限し、家畜飼料運搬車等については出入り口を限定し、病気の侵入防止に万全の対策を講じています。しばらくの期間、見学を希望される方々、畜産関係者の方々には御迷惑をおかけしますが、ご理解ください。
 このコーナーでは、畜産技術センター家畜部が実施している種々の業務とゲノム解析の成果の一部について簡単に紹介しましょう。

畜産技術センター家畜部の業務には、家畜改良・増殖事業と試験研究があります。

家畜改良・増殖事業では、但馬牛精液の供給、種豚や肉用鶏の配付があります。具体的には、優れた但馬牛種雄牛を繋養し、凍結精液を供給する人工授精事業、系統造成された優秀なランドレース(L)種、大ヨーク(W)種、デュロック(D)種を飼育し、肉豚(LWD)を生産するためのF1雌豚(LW)を供給する種豚配付事業、兵庫ブランド肉用鶏の「ひょうご味どり」の配付事業を実施しています。

左から、丸宮土井、LW雌豚、ひょうご味どり

試験研究では、高品質で美味しいブランド牛肉として高く評価されている但馬牛、神戸ビーフの特長や有利性を一層高めるために、肉量及び肉質の改良に加えて、パネラーによる食味テストを付加し、美味しさ(モノ不飽和脂肪酸、アミノ酸、イノシン酸等)について科学的に解明しています。
 また、「霜降り豚肉生産協議会」を通じて、「ひょうご雪姫ポーク」の販売促進のために、生産技術を向上させるとともに、安全安心な兵庫ブランド豚の飼養管理技術の確立に取り組んでいます。
 さらに、ゲノム解析を活用して、ひょうご味どり(♂兵庫(♂薩摩鶏×♀名古屋種)×♀羽毛色劣勢白色プリマスロック種)、ニューひょうご味どり(♂兵庫(♂薩摩鶏×♀名古屋種)×♀羽毛色優性白色プリマスロック種)の経済形質を改良する課題に取り組んでいます。

但馬牛とひょうご味どりについて、ゲノム解析の研究が着実に進んでいます。

但馬牛について、他研究機関と連携し、北部農業技術センターと共に遺伝情報の解明と利用を進めています。バンド3欠損症やクローディン16欠損症等の遺伝性疾病の診断による保因牛の排除は言うまでもなく、脂肪交雑(BMS)を1程度増加させる21番染色体にあるMarbling-1と4番染色体にあるMarbling-3、枝肉重量を40kg程度 増加させる6番染色体にあるCW1等の経済形質に影響する遺伝子をみつけました。また、Marbling-3とCW2遺伝子ではSNP(Single Nucleotide Polymorphism)もみつかっています。
 この他に、美味しさと関係する不飽和脂肪酸関連遺伝子でもDNA多型がみつかっています。例えば、不飽和脂肪酸転換酵素(SCD)遺伝子にはAA、VA、VV型があり、不飽和脂肪酸比率はAA型が多く、脂肪酸合成酵素(FASN)遺伝子にはBB、BL、LL型があり、オレイン酸比率はBB型が多くなることが分かりました。
 また、脂肪の分化に関わるPPARγ遺伝子ではAla/AlaとAla/Val型があり、Ala/Val型ではバラ厚が増加し、冷屠体重とBMSが増加傾向を示すことが分かっています。これらのDNAマーカーを利用して、優秀な種雄牛や種雌牛の選抜に利用しています。
 ひょうご味どりでは、ゲノム情報を使った育種研究を実施しています。これまでに1番染色体にある増体性マーカーADL19とADL192にはAA、AB、BB型があり、Bアリル(対立遺伝子:ここでは同座位で対立するDNAマーカーのこと)は体重をそれぞれ11%と8%増加させることを突き止めました。
 さらに、7番染色体にある腹腔内脂肪蓄積マーカーであるMCW0316とADL0169にはAA、AB、BB型があり、Bアリルは腹腔内脂肪蓄積をそれぞれ20%と21%減らす効果がみられました。
 これらのマーカーを利用して、増体性に優れ、腹腔内脂肪蓄積の少ないひょうご味どりを選抜してきましたが、現在はもも肉割合の多いひょうご味どりを作出するために、ゲノム情報の解析を進めています。