センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 農業技術センター 環境・病害虫部長 高木 廣 が執筆しました。

環境・病害虫部の紹介

環境・病害虫部には土壌・肥料や水について研究する環境部門と農作物の病害虫についての研究と病害虫の発生状況を調査する病害虫部門があります。現在、両部門とも、環境に優しい環境創造型農業の推進のための技術開発を中心に研究を実施しております。

主な研究課題を挙げてみますと、

1 環境部門

  1. 野菜における有機農業発展のための合理的、効率的栽培技術の開発
  2. 作付体系を考慮した環境負荷軽減のための効率的施肥技術の開発
  3. 有機質資材連用試験
  4. 水稲・麦に対する堆肥及び3要素試験
  5. 土壌汚染対策
  6. 地域特産作物における農薬動態解明と安全使用技術の開発

* 最近の主な成果では

①富栄養化したため池の透視度から用水中に含まれる窒素量を推定し、稲作の減肥栽培を可能にする技術を開発しました。透視度が10 cm 以下では窒素肥料が2割減肥可能で環境負荷が低減でき、また品質向上も期待できます。

透視度を測る装置

②水が土壌にしみ込んでいかない撥水はっすい現象がおきて困ることがあります。これの原因究明と対策技術を開発しました。この現象には土壌中の砂、水分、有機物が関与しており、乾燥状態で出やすくなりますので、施設土壌では、太陽熱消毒や蒸気消毒後に、灌水かんすいしても水玉のようにはじかれて、消毒する前に土壌水分を15%程度(土を握ってくずれない程度)に保つことによって回避できることを明らかにしました。

左から、握った土がずれない程度、はじかれた水、撥水現象で生育不良

③水稲、麦に対して稲わら堆肥と三要素(窒素、リン酸、カリ)を連用する試験では、58年間継続して水稲・麦の2毛作栽培をしています。その結果、水稲に対しては、リン酸肥料を施用しなくても堆肥を施用すればリン酸施用区と同量収穫ができることが明らかとなりました。肥料高騰の時節柄朗報です。しかし、ムギの場合はリン酸質肥料は必要ですので間違わないように。

長期リン酸無施用が二毛作体系の水稲収量に与える影響

④タマネギの産地については、中国産が淡路経由で淡路産に偽装されるケースがあり消費者、生産者の憤りを買いましたが、淡路産と中国産を判別する技術を開発しました。区別の方法は5元素を分析し、その比率などを計算することにより明らかに出来ます。方法は公開していますので、生産・消費者がいつでも調査・分析でき、偽装抑制効果は大きいと思います。

色々な産地のタマネギ

2 病害虫部門

  1. 飛ばないテントウムシを利用した果菜類のアブラムシ防除技術の開発
  2. 光による施設花き類病害の発病抑制技術の開発
  3. 昆虫の特性を利用した施設微小害虫の物理的防除技術の開発
  4. 対抗植物の土壌混和による土壌消毒技術の開発
  5. 遺伝子チップを用いた細菌病診断の現地適応型試験
  6. レタス栽培におけるウワバ類の防除技術の確立
  7. タマネギ細菌性病害の防除技術の確立

* 最近の主な成果では

①近紫外光をイチゴに当て、植物の免疫機能を高めてイチゴのうどんこ病を防除する技術・装置を開発しました。午前9時から午後3時まで点灯すると、発病が低く抑えられ、色つきもよく、糖度も上がる傾向があります。この装置はパナソニック電工と共同開発し、全国のイチゴ産地で利用が始まっています。

近紫外光照射中のイチゴ栽培

②黄色蛍光灯をレタス畑で点灯することにより、ヨトウムシなどの夜蛾類を防除する技術を開発しました。淡路、播磨地域のレタス産地で点灯しています。また、カーネーション栽培のほとんどの施設でも点灯し、夜蛾類対策で効果を上げています。

③種子に拮抗菌を生きたまま被覆(ライブコート)する技術を開発しました。
 播種するだけで苗に拮抗菌が取り込まれ、トマト青枯病などの土壌病害に対して発病を抑えます。イネ種子の消毒も出来る技術です。現在、登録に向け作業中です。

ライブコート処理種子

④植物細菌病の診断・同定には通常数ヶ月かかりますが、半日で診断・同定が可能になる遺伝子利用による診断同定技術を開発しました。
 これは、1cm 四方のチップにあらかじめ数十の病原細菌の遺伝子を固定しておき、診断したい罹病植物から採取した樹液に含まれる病原菌の遺伝子をPCRで増幅し、チップの上にたらし、反応をみて同定します。

遺伝子チップ

⑤飛ばないテントウムシを使って施設野菜のアブラムシを防除する技術の開発をしています。テントウムシはアブラムシを食べる天敵として有名ですが、定着せず飛んで逃げる欠点があります。飛ばないテントウムシは定着性があり、放飼の数とタイミングにもよりますが、化学農薬と同等の効果があり、しかも抵抗性を考えなくても良いので期待されています。今後生物農薬として登録作業に入る予定です。