センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 森林林業技術センター所長 松田 博文 が執筆しました。

記録的猛暑と森林

今年は、梅雨明けが7月17日に北陸、関東甲信、東海、近畿、中国、四国、九州北部でほぼ平年並みか少し早く一斉に明け、それ以降は、記録ずくめの猛暑の夏となったのはご承知のとおりです。
 気象庁は統計を取り始めた1898年以降で最も高かったと発表しました。そのデータを見ますと6~8月の夏全体の全国平均気温は平年比で+1.64℃となり、1994(平成6年)の平年比+1.36℃を上回る観測史上最高気温を記録、また1日の最高気温が35℃以上になる猛暑日が豊岡市で38日(6~9月の期間)となり、全国では群馬県館林41日、埼玉県熊谷41日、岐阜県多治見38日に次ぐ記録となっています。そのような結果から、30℃以上の真夏日や25℃以上の夏日、熱帯夜などの連続記録、月平均気温の最高値の更新等々、統計期間113年では最も高い歴史的な記録となったようです。
 今回の影響はさまざまなところで現れていますが、熱中症では全国で約500人が亡くなり、病院に搬送された人は5万人を超えたようです。畜産分野でも乳・肉用牛、採卵鶏、豚などもかなりの被害がありました。電気もエアコンの影響か電気使用量の記録更新が相次ぎました。
 この猛暑の大きな原因としては、エルニーニョ現象終息後の高温期およびラニーニャ現象時の高温期が継続したことや、日本付近を通る偏西風が北に偏ったために太平洋高気圧が日本を広く覆ったことだと言われています。ロシアなど世界各地においても猛暑やスポット的な集中豪雨で大きな災害が起こっています。地球温暖化の影響が出始めたのかと身をもって感じる状況になってきたのかという気もします。

さて、これだけ猛暑や異常気象が続いたらどうなるのかということを、森林で考えてみますと、まず、広葉樹のドングリがなるナラ類の大きな木が枯れるという現象が起こっています。ナラ枯れはカシノナガキクイムシが運ぶ通称ナラ菌によって樹木の通導組織が破壊されて水分等を末端まで運ぶことができなくなって枯れるのですが、今夏の猛暑によって水分不足が拍車をかけている可能性があり、兵庫県の被害量は昨年の3倍程度ある模様です。マツタケについては、9月のはじめ時点では、ほとんど発生は難しいだろうとの予測がありましたが、10月以降の地温の温度低下と適量の雨から発生自体は2~3週間遅れましたが、一時に発生して例年より豊作と報道されました。
 次に、春先になるとアレルギーの人を悩ますスギ花粉の発生状況について気象との関係を考えてみたいと思います。ここでは、地球の大きな流れの期間を考えるのではなく、10年、20年のスパンでのこととします。
 スギ花粉の発生量の研究については、さまざまな機関でおこなわれておりほぼ同様の結果が得られていますが、当センターでの研究でも、前年の花芽分化時期(7~8月)の気温が高いほど、また、降水量が少ないほど翌年度の着花量が増加する傾向が認められており、スギは花芽分化時期に高温・少雨の気象条件下で水ストレスを受けると花芽を分化しやすくなる傾向があるといえます。
 さらに、スギ林の着花量は年単位の豊凶の生物リズムがあり、この2つの要素が付加的に作用して、大豊作年や大凶作年が出現するものと考えられます。今回の場合を考えますと、今年の夏は記録的な猛暑で大きな水分ストレスがあったうえに、生物リズムでも凶作年にあたっています。ということは、来年は大豊作で歴史的に花粉が多く発生すると予見されますので、アレルギーの方は大注意ということになります。
 10月15日、日本気象協会が発表した来春のスギやヒノキの花粉飛散量の予測でも近畿と東海の一部は今春の10倍以上、関東でも2~5倍になる見通しということです。
 スギ以外でも、例えば、ケヤキやトチノキの種子(いわゆるドングリ)においても、前年7月に降水量が少なく気温が高い場合や凶作年の翌年は種子が豊作になることが認められています。これは、今年被害が多い熊などの人家等への出現にも関係があります。
 樹木の生物リズムは、ほとんどの樹種は隔年に豊凶を繰り返す場合が多いようですが、中には数年というものもあります。アレルギー性鼻炎等に関係していると言われているスギについては、ここ20年ほどは、西暦の奇数年が花粉の発生が多い傾向になっています。とすると温暖化傾向が続くとますます花粉は増加することになります。

そのようなこともあり、当センターでは、花粉の少ない(通常の百分の1)山行苗木の供給に向け、平成20年度から取り組んでおり、平成26年度からの少花粉スギの苗木供給をめざして現在、朝来市山東町緑化センターにおいて少花粉スギの採種園の造成を進めています。その後に、ヒノキについても少花粉採種園の造成を行う予定にしています。

少花粉苗木についての内容についてさらにお知りになりたい方は当センター資源部までお問い合わせください。