当総合センターは、農・畜・林・水産業の各分野の試験研究機関からなり、このページを各部署が順に担当しています。今月は、兵庫県宍粟市にある森林林業技術センター 松本聡 が担当し、「そもそも森林林業の研究ってなぜ必要?」「どんな研究しているの?」という基本を理解できるようにご説明したいと思います。
まず、森林・林業の技術というとみなさんどんなことをイメージされますか?
山に木を植えて、育て、そして木々が大きくなったら伐って利用する林業、ちょうど人間の一生のようであり、非常に長い時間を要することですので、結果を短期間にアクセク要求する今の時代にそぐわない面があるのかもしれません。
しかし、一方で、古くから森林に恵まれた地域には文明が栄え、森林の消滅を許してしまった地域の文明は滅びていきました。そういう意味で、何気なく普段から見ている緑に覆われた森林は、多くの恵みを有形・無形にわれわれ人間に与えてくれています。これらの緑を将来につなげていくために兵庫県の森林に生じている課題を一つ一つ解決へ向けて試験研究し、必要な技術を開発している所というのがこの機関のかみ砕いた表現といえましょう。
さて、具体の試験研究はどうかというと、
木を植える
→苗木の生産、上質なタネの採種、接ぎ木による苗木の生産など一見すると昔からある技術のようですが、いままでのように土のついていない根がむき出しの苗を山に直接植えるのでなく、新しいコンテナ(プラスチックの容器)を用いた苗木の生産が始まっています。
また、過去に選ばれた素性の良い木(精英樹)から、さらに花粉の少ない木を選んで花粉症などが現代病として社会問題となる中で、少花粉のスギの開発も行っています。
単年度で良い材質の木かそうでないか結論が出ないので、時間のかかる研究ではありますが、気候風土が南北で大きく違う兵庫県では、スギ・ヒノキともに瀬戸内側と日本海側で統計を区分して育てていく必要があり、近年多発する災害に備えて短時間で必要な苗木を生産しなければならないこともあるので、豊作の年のタネを何年も一定温度(マイナス20度の貯蔵庫)で保管するなど非常に地味な仕事を継続しています。
(定期的にマス目の中のスギ苗の発芽本数、苗長の測定など生育状況を調査)
木を育てる
→間伐は、植林したスギ・ヒノキを立派に利用できる木に育てていくために必要不可欠な間引きのことです。
根元から先端に向けて極端に細くならない樹形(いわゆる寸胴)に誘導していきます。人間による利用を考えるとはじめは多い本数を植えて、競争させながら、まずは樹木の高さを競わせ、ある程度混み合ってきたら間引きをして隙間を与えることで、一本一本がより太く育っていきます。
現在では、この間伐が手遅れになってきていることが大きな問題になっており、効率よく大面積の間伐ができる省力化の技術として、列状に一筋二筋機械的に間伐する手法も実施されるようになってきています。当センターでもこのような間伐の技術、とくに森林作業の効率化などについて調査研究しています。
木を利用する
→木は、昔から家を建てる、薪や炭にして燃料として使う、紙にするためのパルプとして使うなど多くの生活材料として我々の暮らしを支えてくれています。
しかし、鉱物資源とは異なり、使っても無くならない(木を伐っても、植えてうまく育てればまた生えてくる。)再生可能な資源として、60億人を超えた地球の人口を支えていく資源として見直しされてきています。とくに、木を伐ってうまく利用し、その利益が単に富をもたらすだけでなく、次世代の森林が育成されるために使われ、森林の管理が持続的に行われるいわゆる『資源循環型の林業』を実現させることを目指していきたいと考えています。
これらを実現するための一つの方策として、住宅用木材の強度を研究し、「従来より広い分野で木材利用が可能とはならないか?」人口が減って高齢化が懸念されるなかで、木材需要が「いまより拡大でき山に富を還元できる手段はないのか?」などの多方面からの研究です。
さらに、森林は身近な生活材料としてだけでなく、空気・水の供給や防災機能など環境としても我々の生活に密着し、やすらぎを与えてくれています。このような森林の持つ多面的な機能は、木や薪のように売っていくらになるというように単純に貨幣価値に換算しにくい面があるので、近年まで研究がなおざりにされてきた傾向があります。
しかし、多くの人々は忘れかけてきていますが、ほんの50年前まで我が国では薪・木炭を燃料とし、1億人弱の国民が生活をしてきた事実があります。これらの里山は、薪炭利用が途絶えると放置され現在に至っていますが、薪炭が用いられなくなったことがそれ以降の森林の植生変化にどのような影響を及ぼしているのかなども環境の時代へとシフトしていく今日、研究課題として重要になってきています。
このように、森林林業にまつわる様々な角度から試験研究を進めている機関ですので今後ともご支援・ご理解をよろしくお願いいたします。