センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 淡路農業技術センター畜産部 部長 大川 浩一 が執筆しました。

淡路島は古くから酪農が盛んな地域で、特に三原平野ではタマネギ、白菜、レタスなど野菜を耕作する農家の家々の軒先で数頭の乳牛が飼われていました。昭和50年代は3千4百戸あまりの酪農家がおり、2万頭近くいたとのことです。当時、乳牛はよく稼いでくれたようで三原に住む先輩獣医師からは家に数頭の乳牛がいたお陰で獣医科大学に行くことができたという話を聞いたことがあります。

それから30年あまり経過し、今では150戸ほどの酪農家しかいなくなってしまいました。

今は酪農家にとって逆風の時代、原因は飼料価格の高騰にあります。円安の影響もあり、濃厚飼料、粗飼料ともにここ2、3年で2~3割も値上りをしています。ある酪農家は生産コストを下げるために自給飼料を増やし、飼料のやり方も工夫しているがもう限界だと話していました。けれど、牛が好きで酪農が天職だと思っているのでやめたくはないのだとも言っていました。

さらに別の酪農家からこんな話も聞きました。TPPについて、乳製品の聖域化は譲れないとしているが、ニュージーランドやオーストラリアから安いチーズやバターなどの乳製品が大量に輸入されれば、国内でチーズやバターなどの乳製品用に仕向けられている北海道の生乳が飲用向けとして関東や関西の消費地に運ばれてくるようになり、県内のほとんどの酪農家は廃業せざるをえないのではないかと心配していました。

ところで、先日、当淡路農業技術センターのふれあいディを開催し、一般の人を対象に畜産や農業に関する○×クイズを行いました。「乳牛は子供(子牛)を産まなくても、乳は出る。」という問題に参加した2/3ほどの人達は○と答えました。正解はもちろん×です。

日本人の半数近くの人は牛乳をほぼ毎日飲むという調査結果もあるほど、牛乳は食生活に欠かせないものとなっています。しかし、牛乳の購入にあたって重視するのは価格、消費期限で、産地や味はあまり重視されておらず、兵庫県は酪農の盛んな県であることも知られていません。

淡路農業技術センター畜産部は、乳用牛や酪農に関する試験研究を担当しています。

そして今年、重点的に取り組んでいる研究課題や事業は4つあります。

1つ目は「高泌乳牛の第一胃内環境を最適化する飼料調整法・給与法の開発」という課題で、給与する飼料の構成や順序、時間を変化させて、第一胃内のpHの変動を測定し、コストを低減する飼料の給与方法を確立するものです。

2つ目は「ミルカーのクロー内圧測定及び搾乳能力診断技術の開発」という課題で、乳房炎の発生原因の一つとなっている搾乳器具の能力、特にミルカーのクロー内圧の変動を正確に測定できる技術を確立させ、乳房炎による損耗を防止し生産性の向上を図るものです。

3つ目は「搾乳直後から変化する生乳の新鮮さ指標の確立」という課題で、兵庫県産牛乳の特長である新鮮さを消費者にアピールするため、これまでなかった生乳の鮮度を客観的に評価できる指標を確立するものです。

4つ目は優良乳用雌牛効率生産推進対策事業で、淡路農業技術センターで飼養している能力の高い雌牛から受精卵を採取し、酪農家に販売して生産性の向上を図るものです。

これらの研究課題や事業を通じて、酪農家にコスト低減方策や生産性の向上をサポートし、さらに消費者に酪農のことを理解してもらえるようになりたいと思っています。

左:試験牛舎内の様子、右:センターで飼養する兵庫県乳牛共進会の優等賞牛