センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 農業技術センター農産園芸部 部長 山下 賢一 が執筆しました。

農業技術センター農産園芸部は、二つの部門で研究に取り組んでいます。作物・経営機械部門で主要作物(稲、麦、大豆)を中心に品種改良、原原種・原種生産、栽培技術改善、農業経営、農業機械化などに関する研究を行っており、園芸部門で園芸作物(野菜、花き、果樹、薬草)の品種選定、栽培技術改善、種苗育成などに関する研究を行っています。

当部は様々な作物の栽培法改善試験を基本として研究を進めており、病虫害、作物栄養関連の研究を担当している環境・病害虫部とさらなる連携を図り、高品質で安全・安心な農産物生産のための技術開発に取り組んでいます。また、最近の温暖化や特異的な低温など異常気象に対応した技術開発にも取り組んでいます。

近年の研究成果について紹介します。

1 気温情報を活用した酒米の高温障害を軽減する栽培支援システムの開発

兵庫県の酒米生産は全国生産量の27%を占め、日本一の酒米生産県です。特に兵庫県で産まれた「山田錦」は大粒、心白率の多さから最高の評価を受けており、県南東部で3,630ha(平成24年)の作付けがあり、生産量は全国生産量の22.4%を占めています。

この「山田錦」が近年の温暖化の影響を受けて品質の低下が見られるようになりました。農産園芸部(酒米試験地)では「山田錦」栽培適地の50mメッシュ単位の気象データベースを作り、このデータから圃場毎の最適出穂期を割り出し、この出穂期から逆算して、障害の起こりにくい圃場毎の最適移植期を推定できる技術開発を行いました。

また、栽培当年の出穂期以降の気温の状況から高温障害の起こりやすい圃場が分かるようになりました。今後、微気象の調整など、高温障害を軽減する効果的な栽培技術の開発に繋げていく計画です。

図 「山田錦」最適作期決定システムの概要

2 クリの「株ゆるめ」処理による凍害抑制技術の開発

本県ではブランドの丹波栗再生に向け、中山間地の遊休農地の活用推進にもなるクリの新植が増加しています。しかし、凍害による幼木等の枯死が発生することが多く、産地拡大(育成)の障害となっています。凍害発生には、秋冬季の最低気温、樹園地の地形、土壌の透水性、品種などが関係することを明らかにしてきました。凍害対策として「株ゆるめ」による軽い断根処理の凍害抑制効果が高いことが分かりました。今後、本技術の精度を高めるとともに、凍害の発生しにくい新設園地の選定方法や凍害対策の指標づくりを行っていきます。

左:反転くわによる幼木の「株ゆるめ」、右:フォーク型バケットによる「株ゆるめ」

3 兵庫オリジナルなイチゴ新品種育成の取り組み

県内イチゴ生産者から、直売所および観光イチゴ園向きの品種育成の要望がありました。消費者に近いことから鮮度を前面に、良食味はもちろんのこと、兵庫のオリジナリティが発揮できる品種の育成に取り組んでいます。平成20年より「さがほのか」、「さちのか」および「とちおとめ」等を交配親として新品種育成を始めました。耐病性、食味、果色、収量、栽培のしやすさ等の観点から選抜を重ね、現在、2系統にしぼり現地圃場で栽培試験を行なっています。近年中に品種登録出願し、兵庫のオリジナル品種としてデビューさせたいと考えています。

左:糖度が高い「系統09-12-1」、右:大果の「系統 09-16-1」