センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 森林林業技術センター 木材利用部長 酒井 宏一 が執筆しました。

森林林業技術センターでは「森林を造成し育てる」、「木材生産や防災等の公益的機能の発揮など森林を利用する」、「その生産物である木材を利用する」という森林、林業、木材関係全般の研究を行っていますが、その中で木材利用部は主に県産木材がより使われるよう木材の加工や利用の試験研究を行っています。
 県産木材の品質向上、木材需要の大きな部分を占める建築材としての利用促進、新たな用途の開発、最近注目を浴びているバイオマス利用等、いろいろな試験研究に取り組んでいます。
 さらに、木材業界から持ち込まれる木材に関する様々な試験も行っています。

近年力を入れている分野として、スギをもっと木造住宅で使ってもらうため、特に梁や桁の横架材利用を促進するための研究に取り組んでいます。
 日本の木材自給率は一時2割を切っていましたが(平成14(2002)年が18.2%と底)、近年は平成24(2012)年には前年比1.3ポイント増の27.9%と3割ちかくまで回復してきています。我が国の木材需要の4割が建築需要で、国産材に限れば55%ですが、木造住宅で国産材が使われる割合はどれくらいかご存じでしょうか?
 柱などは6割以上、土台で4割、その他の下地でも4割が国産材が使われていますが、梁や桁などの横架材に限ればわずか7%しか国産材が使われていません。

一方では、山の木は大きくなっており、特にスギではかなり径の大きな木が市場に出てくるようになりました。
 10年~20年前までは径が30㎝を超える材は少なく価格も高かったのですが、現在では普通に見られるようになってきています。
 40㎝程度の太い材も結構出てくるようになっており、梁、桁になる資源が十分に供給できるようになっています。
 また、製材工場にとっても横架材の生産は歩留まりがよくなるのと、横架材を取った残りの部分で価値の高い材が取れる可能性が高まるため、メリットがあります。
 横架材を使っていくことはスギ材の価値を高め、山元にもメリットが大きいものがあります。

かつて、林業の目標として、高く売れる優良材をいかに生産するかというのが重要で、実際、ヒノキの柱材では無節ともなるとm3あたり十万円を超えるような例も珍しくありませんでした。
 しかし、和室が減るなど、また和室の柱でも集成材にツキ板(薄くスライスした板)を張ったものの使用が普通になるなど、需要構造が変わってしまっており、高級材はごく一部だけになってしまっています。
 このため、近年は生産コストを削減することが中心になっておりました。確かに、ほんの10年前の時点では同じ山岳地形のドイツ、オーストリアに比べて話にならないほど生産性は低かった。
 しかし、団地化、道作り、高性能林業機械の導入の三点セットで努力を重ねた成果が現れてきており、全国でも生産性の高い伐採搬出システムを持つ事業体が多いことで知られている兵庫県の宍粟地域を見ても、山の木が生長したこともありますが、伐採搬出の生産性は3倍~5倍へと劇的に向上しております。

しかし、高価な高性能林業機械の償却費を考えると、やはり持続的な林業生産が可能になるレベルには至っていないのが現実であり、さらなる伐採・搬出・保育等での生産コストの削減はすすめることはもちろんですが、利用等を工夫することで材の価値を高めていくことがより重要になってきております。
 スギ材の横架材利用は材の利用価値を高める有力な手段のひとつとして大いに期待されるものであります。

ところが、スギの横架材利用には、大きな問題があり、なかなか進まない状況でした。それは、強度面での不安と、手に入りにくいし高いという問題です。
 大工さんや工務店の建築サイドの方にスギを横架材で使ってくれと言うとまず言われるのは「スギはしなりやすいし柔らかいので、たわみが心配だし仕口も弱いから梁や桁では使うのは不安だ」という人がほとんどでした。
 また、強度面では問題ないと理解している人でも、なかなか手に入らない、入ったとしても発注してからの時間が掛かりすぎるのであきらめる、外材に比べてかなり高いといった問題がありました。

このため、まず強度面での不安を取り除くための研究に取り組みました。
 これは、但馬木造住宅振興協議会からの要望もあり連携しながら取り組みました。
 最初にたわみの不安の解消として「スパン表」を作成しました。
 これにより、スギでもたわまない寸法の材を選べば問題なく使えるようにしました。
 また、仕口の弱さの不安については、従来の仕口強度を三倍に高める画期的な仕口「Tajima Tapos」を開発することができました。
 プレカットができて何十年にもなるのに、プレカットの形状は変化してなかったのです。
 実際に既存の仕口の耐力を調べてみると、4mを超えるスパンの場合、材質や加工精度によっては強度に問題のあるケースも見受けられました。

これは、既存のプレカットのU字型仕口の♀受け材では底に荷重が集中するためスパンが長くなってせいが高くなっても仕口強度は強くならないという特性があるためです。実際に破壊テストをしてみると♀材の底部が割裂破壊します。
 そもそも、木材は軸方向が半径方向の約3倍もの強度があるのに、この弱い半径方向にしかも集中して荷重がかかる従来のプレカット仕口はあまり木材の特性を活かしているとはいえない物でした。
 この問題を解決したものがTajima TAPOSです。
 テーパーをつけることにより、底部に荷重が集中しないようにしておりせいが高くなればなるほど耐力があがることになり、しかも強い軸方向で力を受けています。
 これにより強度が3倍に高まることになり、長スパンでも金物に頼ることなくスギを安心して使えることになります。
 この技術については、特許出願済みですが、県内2社のプレカット工場と使用許諾契約を締結しており、この10月から実際に家が建ちはじめており、実用化が進みつつあります。

また、安心して梁材を使っていくにはその材がどれくらい強度があるか明確になっている方がベターです。
 外材の梁材の多くは強度表示がなされています。
 しかし、県内の製材工場は小規模なこともあり高価なシステムを導入するのが難しいため強度表示ができるのは1社だけです。
 そこで、できるだけ強度表示が可能になるようにと、安価な強度計の開発にも取り組み、検査機関の認定機種と同等の精度をもち安価な器械の開発に成功しました。
 本年度からはこの商品化に工業技術センター等と組んで取り組んでいます。

以上の研究成果により、強度面で安心してスギを使ってもらうようになりました。

本年度からはもうひとつの問題である供給面の課題に取り組んでいます。
 たとえば、供給を増やすために、一本の丸太から複数の梁、桁材が取れる技術の開発に取り組んでいます。
 さらに、これら研究成果を実際にスギの横架材利用の拡大に結びつくように林業普及部門で現場への適用を進めています。
 研修会の開催や個別訪問等を通じて、スパン表やTajima TAPOSの開発により強度面での不安なしにスギを使うことが可能であることを普及するとともに、供給を増やす研究と並行していままでの研究成果を活かしてスギを横架材に使ってもらうための取り組みを林業普及部門で進めていきます。

研究の成果により強度面での不安解消が可能になりましたが、供給面では問題が残っています。
 工務店等の需用者側からは①必要量が望む期間で揃わない、②値段が高い等の問題、全体的な問題として、現在スギを横架材に使っているのは木造建築戸数のわずかに2%の特殊な層であり、これを98%の一般層に広げる必要があること等があげられます。
 また、兵庫県ではスギノトラアカネカミキリの被害が多いですが、この食痕が表面に現れている材(通称であかね材という)があると、梁桁として使われないという問題があります。
 強度的にはまったく問題がないことが各県の研究機関等で証明されているのに現状では横架材にスギを使う家はこだわった施主や工務店が採用するために、アカネ材が返品されるということも現実に起こっています。

製材工場にとっては、あかね材がでるため平角にできる原木が数本に一本のようですし、もし高温乾燥をかけたあとに仕上げひきをしたあかね材がでると、高温乾燥で内部割れを起こしているためチップにしかならなく大損をしてしまいます。
 このように、スギをあらわし(構造材を室内に見えるように使うこと)で使う等こだわっている顧客が多いため、使える原木が限られたり、リスクがあり製材工場があまり積極的でないため等により供給が増えないし、当然値段も高くなってしまうという悪循環に陥ってしまっています。

現在スギを横架材として使っているのは全体のわずか2%といいましたが、これらの内容は①施主、設計事務所、工務店等がすごくこだわっている場合、②県産木材特別融資制度を適用する場合、③地域ブランド住宅等の補助を受ける場合等であり、この多くは助成がなくなるとやめてしまう可能性が高いと思われます。
 やはり、現在使ってくれていない98%に助成等がなくても継続的に使っていただけることを考えていくことが重要です。

これらの工務店のうち10社に聞き取りを行ったところ、やはりまずスギは弱いからちょっと言います。
 しかし、この強度面については、研究の成果であるスパン表とTajima TAPOSの話をするとほぼ納得してくれました。
 でも、次に言われるのはやはり手に入りにくいし、高いということでした。
 しかし、逆にほぼ全部の工務店がもしコストあがらないのならできるだけ地域のものを使っていることがアピールできるので使ってもよいということでした。
 さらに、こだわりがないし建て売りをやってることもあり、現在使ってくれている2%と違って強度が大丈夫という説明ができるのならアカネ材でも問題なく使うと言ってくれました。

したがって、これら現在使ってくれていないところに対してはコストが上がらない範囲で使えるところだけでも使ってもらうように調整していくのがポイントだということが見えてきました。

それでは、一部でも安く供給することは可能でしょうか?

スギは手に入りにくいし、高くなるということですが、この原因はアカネ材の問題もありますが、長い材やせい(高さ)の高い材が混じるからというのが大きな原因です。
 一定のサイズまで(少なくとも長さ4m、高さ24㎝)ならスギはすぐに供給可能だしまた値段も安く供給可能ですが、一軒の家の中では量的には少ないにもかかわらずこれらが足を引っ張ってしまっています。

実際に製材工場で聞き取りをしてみると長さ4m、高さ24㎝程度の平角材なら、アカネ材が混じっても引き取ってくれるという条件をつけてくれるのなら、外材と同等以下の値段である程度の量を供給することは十分に可能ということでした。

そこで外材や集成材よりも安くなる部分だけでも工務店が使えるところに使っていく取り組みを、プレカット工場、製材工場、木材市場、山元と連携して実験的に取り組んでいきます。
 そして、うまくいけば恒常的な取り組んでもらうようにします。

現在取り組みとして考えているのは以下のものです。
①工務店はコスト増にならない範囲で、さらにはアカネ材等の見栄えの悪い材が混じることを了解のうえ、スギを横架材に使うという注文をTajima TAPOS加工が可能なプレカット工場に出す。
②プレカット工場では、スギスパン表ソフトを使いスギのサイズを決めながら、少なくとも外材よりも安く供給できる部分はスギを使うとともに、Tajima TAPOS加工を行う見積を作成して注文を取って実行していく。
③製材工場は見栄えの悪い材も引き取ってもらえることを前提に外材より安価な供給に努める。また、プレカット工場、工務店と取り決めた規格の材について必ず供給するようにする。強度を測定した材をできるだけ出荷するものとする
④木材市場の製品部は同じくプレカット工場、工務店と取り決めた規格の材について供給するようにする。
⑤木材市場の原木部および山元は、できるだけ平角取り原木の供給に努めるものとする。
⑥森林林業技術センターはこの取り組みのPRに努めるとともに、兵庫県産スギ平角材を一定の基準を定めたうえ、たとえば「ひょうごビーム」と名付けて周知を図ること等を検討していく。
⑦さらに全体が、外材より安い部分だけでなく、できるだけスギが横架材に使われるように努めていく。

すでに述べたように、持続的な林業生産活動を実現するには搬出コストの削減等生産性の向上だけでなく、材の価値を高めていくことが不可欠です。
 残念ながらまだ補助金なしでは山元に再生産可能なお金が残るところまでいっておらず、少なくとも平均で一万五千円/m3以上まで原木価格をあげていく必要があると思われます。

近年、現在のスギ原木平均価格である一万二千円/m3程度を下支えする一万円/m3以下の需要として合板用材、バイオマス利用等は確実に拡大しているが、材価を高いところへ引っ張っていく需要は弱く、現実的かつ有力なのは梁桁等に使う平角くらいと思われます。
 そのような意味でも、スギの横架材利用の推進は持続的な林業生産活動の実現のために非常に重要であるといえます。