センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 水産技術センター所長 堀 豊 が執筆しました。

「瀬戸内海環境保全特別措置法」改正の経緯と
水産技術センターの取組み

本年4月に水産技術センター所長に着任しました堀豊と申します。よろしくお願いいたします。今回は、昨年大幅に改正された「瀬戸内海環境保全特別措置法」と、同法に関わる水産技術センターの取組みについて紹介します。

「瀬戸内海環境保全特別措置法」は、瀬戸内海で著しく進行してしまった水質汚染と富栄養化に対処するため、1973年(昭和48年)に、当時まれであった議員立法で制定された「瀬戸内海環境保全臨時措置法」が、5年後の1978年(昭和53年)に恒久化された法律です。

「センターからのひとこと(平成27年水産技術センター所長)」でお示ししたように、この法律を基に行われた環境保全施策の効果により、赤潮や貧酸素、有害物質による汚染等で「瀕死の海」とまで言われた瀬戸内海も、現在では水質が改善され、透明度が高くなり、海水中の窒素やリンが減少し、大規模な有害赤潮もほとんど発生しなくなりました。

一方で、海に流れ込む栄養分を制限しすぎたためか、貧栄養化が進み、養殖ノリの色落ちが発生したり、魚介類の漁獲量が減少したりするようになってしまいました。

そこで2004年(平成16年)7月、将来に危機感を募らせた兵庫県の漁業者団体が先頭を切って、国や県に対して陳情活動を開始し、同年8月には瀬戸内海関係漁連連絡会議を設立しました。同時期に瀬戸内海環境保全知事・市長会議も「瀬戸内海を豊かで美しい里海として再生するための法整備」の実現に向けた活動を開始し、2007年(平成19年)には141万人の署名を国に提出しました。その後国政の変化等もあり、若干の足踏みはありましたが、2011年(平成23年)に瀬戸内海関係漁連・漁協連絡会議が再生発足し、2012年(平成24年)には法整備に向けたパンフレット「かつて瀬戸内海は宝の海だった」(写真1)を作成するなど、関係省庁や議員連盟等広い範囲の皆様に働きかけました。そして2015年(平成27年)2月に改正法の内容を先取りする形で、国の瀬戸内海環境保全基本計画の大幅改定が閣議決定され、同年9月には国会で改正法が成立、同年10月に施行となりました。この間、10年以上の歳月をかけて漸く今回の改正に漕ぎつけたことになります。

法改正を機に、兵庫県漁業協同組合連合会と一般財団法人兵庫県水産振興基金は、“瀬戸内海が真に「美しく豊かな海」と実感できる日まで、共に熱意と関心を持ち続けよう”という誓いを込め、“「美しく豊かな海」実現へのシンボル”として「ディープブルーリボン」を作成しました(写真2)。緑色が豊かな森を、白銀色が美しい河川と海岸線を、濃青色が豊かな海をそれぞれ表現しています。兵庫県の漁業関係者は、漁業内外のあらゆる会合にこれを着帯していくことで、「美しく豊かな海」に関する話題提供や情報発信に活用しています。

法律が改正されたとはいえ、それだけで問題が解決するわけではありません。これから何をしていくかが最も大切です。

改正法の附則には、「政府は、(中略)瀬戸内海における栄養塩類の適切な管理に関する調査及び研究に努め、その成果を踏まえ、法施行後5年を目途として、瀬戸内海における栄養塩類の管理の在り方について検討を加え、必要と認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずる」と記されています。

そこで、私ども水産技術センターでは、まずは栄養塩環境と漁獲量変動との関係について重点的に研究していくことにより、「瀬戸内海における栄養塩類の管理の在り方についての検討」に貢献したいと考えています。

具体的には、①下水処理施設の栄養塩管理運転の効果及び明石海峡を通じた大阪湾から播磨灘ノリ漁場への栄養塩供給効果の検証、②イカナゴ親魚の生息場所としても重要な「鹿ノ瀬」漁場の環境変化把握・機能再評価と浅海域の漁場造成技術の検討、③イカナゴを頂点とした生態系モデルの構築による適正栄養塩濃度の推定の3課題を主軸として調査研究を実施します。

これからの私どもの研究成果が、一日も早く「美しく豊かな海の実現」に役立つことを願ってやみません。

(写真1 パンフレット)
(写真2 ディープブルーリボン)