センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 今月は 但馬水産技術センター所長 山中 健志郎 が執筆しました。

今回は但馬水産技術センターの調査・研究フィールドである「日本海」を紹介します。

日本海は、南の対馬海峡から北の間宮海峡まで南北約2千キロ、東西約千キロで、面積は約100万平方キロです。

▽海底の様子

下の図1は、最新の探査技術とデータ処理技術によって再現された日本海の海底地形図で、北側には水深約3000~3500mの平坦な日本海盆が広がりますが、南側や日本列島沿いは複雑な地形となっており、但馬の真北には隠岐堆や大和堆と呼ばれる高まりが台地状に連なっています。この大和堆の最も浅い所は水深約240mです。

日本海は、瀬戸内海よりはずっと深いのですが、太平洋の平均水深(約4300m)と比べると全体的に浅く、また日本海溝やマリアナ海溝のような深い谷(超深海帯)もありません。

海洋学では、水深200mまでを浅海、それより深いところを深海と区分しています。

▽水温の様子

日本海には、対馬暖流が流れています。夏の表層水温はおよそ25~27℃、冬でも但馬沿岸では11℃前後を保っています。

しかし、水深200m付近から水温は急に下がり、水深約300m以深では0~1度と年間を通じてほぼ一定です。この冷たい海水は「日本海固有水」と呼ばれており、この固有水の成因にも日本海の形状が大きく関わっています。

なお、表層の平面的な水温分布も、冷水塊が現れたりするので一様ではなく、魚類やイカ類の回遊経路や漁場形成に大きな影響を与えています。

▽潮汐の変動(満潮と干潮の高低差)と冬季風浪の影響

海は、月の引力の影響を受けて、満ちたり引いたりします。

太平洋側や瀬戸内海であれば、1日の干満差は1mから2mに及び、岩礁地帯では階段状に連なる潮だまり、砂泥域では広大な干潟が出現します。

一方で日本海の1日の干満差は大潮のときでも20~40cm程度しかありませんので、広大な潮だまりや干潟を見ることがありませんし、引き潮のときに遠くへ行って、満ち潮で取り残されることもありません。

しかし、1年を通じてみると、夏に比べて冬は、60cm近く潮位が下がります。[図2]

この潮位が下がる冬季、季節風が吹き付け、海岸には荒波が押し寄せるため、夏のうちに流れ着いた亜熱帯性の生き物は、寒風にさらされ、定着することなく残念にも死滅してしまいます。

▽海洋環境と生物と漁業

春から夏にかけての但馬の海は穏やかです。

潮下帯と呼ばれる1年を通じて干出されない浅い海の中は、岩場や転石帯ではホンダワラなどのガラモ場となり、また波静かな内湾にはアマモが繁茂し、カワハギ、アジ、メジナなどの稚魚や笠貝、小型の巻き貝など数多く見られます。

アワビ、サザエ、イワガキもたくさん生息しており、沿岸漁業の重要な資源となっています。

5月から6月にかけては、ガラモ場にトビウオが産卵のため来遊します。これをすくい取る漁法で漁獲しています。

やや沖合では、対馬暖流に乗ってやってくるスルメイカやケンサキイカの「いか釣り漁業」が行われており、このうちケンサキイカは沿岸にも寄ってきますので、定置網にも入ってきます。

この定置網は、その名前のとおり、海中に網を設置しておく待ち受け型の漁法で、但馬沿岸では竹野と余部の2箇所にあります。定置網では、沿岸域にやってくる魚介類を知ることができ、夏であれば、アジ、ツバス(ブリの1歳魚)、カンパチやマダイ、イシダイが入ってきます。

9月から11月、はるか南、南西諸島からやってくるソデイカという大型のイカの最盛期を迎えます。ただし同じ頃、黄海や東シナ海北部で発生した厄介者の大型クラゲも対馬暖流に乗ってやってきます。

晩秋から真冬。海上は大時化ですが、この時期、脂の乗ったブリがときに定置網を活気づかせてくれます。

これらの魚類など海洋生物は、概ね水深200m以浅に生息し、対馬暖流の流路や強弱の影響を強く受けていることがわかっています。

9月1日、沖合底びき網漁業、べにずわいかにかご漁業が解禁を迎えました。

沖合底びき網漁業は、水深100mから800mぐらいの海底付近をロープと網で曳く漁法です。

水深100m~200mではニギス、ソウハチ(エテガレイ)、200mより深い水深帯ではハタハタ、アカガレイ、ズワイガニ、ホッコクアカエビ(甘エビ)、ホタルイカが漁獲されます。

また、べにずわいかにかご漁業は、水深800メートルから1500メートルの海底にかごを仕掛け、ベニズワイガニを漁獲しています。

概ね200m以深の魚介類はいずれも冷水性で、先に紹介しました日本海固有水に生息しています。

水深200m以深は深海となりますので、これらは「食卓にのぼる深海魚(生物)」とも言えるのですが、よく子供向けの図鑑などで紹介されたり、駿河湾で漁獲される「いかめしい深海魚」のような容姿をしておらず、話題にならないのがちょっと残念です。

下の写真は、9月2日、香住漁港での沖底解禁後の初セリです。

また下の写真は、9月5日、香住漁港でのべにずわいがにかご解禁後の初セリです。

▽日本海の調査方法

冒頭から何やら日本海のことはすべてわかっているかのように書いてきましたが、これらは日本が近代に入って以降、脈々と行われてきた先人の調査・研究で明らかにされてきたことです。

スルメイカであれば、春先に東シナ海で生まれ日本海に入ってくることは明らかになっていますが、今年は、どのあたりを通り、どこに漁場が形成されるのか予測するためには、水温及び卵や稚イカの分布を知る必要があります。カレイ類やカニ類の資源の現状を知るためには、やはり稚魚、稚ガニ、または産卵群について水深ごとの分布を調べなければなりません。

どうやって調べているのでしょうか。

ひとつは、漁港で陸揚された漁獲物を直接調べることです。また、漁船の操業場所や漁獲量も有益な情報となります。しかし、漁獲物は船の上で選別されてきますので、小型個体など詳細なデータが抜け落ちるという欠点があります。

もうひとつは人工衛星からの情報です。広域にわたるデータが得られますが、海の表面のことに限られてしまいます。

詳細なデータを得るためには、やはり、船で海に出て直接調べねばなりません。

但馬水産技術センターには、調査船「たじま」があります。[写真]

    
調査船たじま

「たじま」は平成21年に竣工した新鋭船で、総トン数199トン、航海速力13ノット。CTDメーター(C:電気伝導度、T:水温、D:水深)や計量魚探など最新の観測機器や精密な位置情報システムを備え、底びき網、かにかご、いか釣り機を用い、時には水中ビデオカメラも使って、直接、海中や水産資源の調査を行っており、調査海域は、本県但馬沖から西は島根県隠岐諸島や浜田沖まで、北はスルメイカ漁場の北緯38度付近にまで及びます。

当センターでは、これらの調査で得られたデータを収集・分析し、海洋環境や水産資源の動向を把握するとともに、予測を行い、それらをホームページから公表したり、研修会などを通じて但馬地域の漁業関係者へお伝えしてきました。

これらの情報が漁業経営の一助となり、但馬地域の水産業の発展につながれば幸いです。