センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 森林林業技術センター木材利用部長 岩村 裕 が執筆しました。

森林林業技術センターは、伝統のある森林・林業・木材の公的な試験研究機関です。昭和9年(1934年)、都道府県による林業試験場としては全国で2番目に、兵庫県林業試験場として宍粟市山崎町鹿沢に設置されました。昭和48年に現在の五十波に移転し、今年で83年目となります。

私が所属する木材利用部は、平成7年度に新たな組織化され、平成23年度に資源部(普及担当)と統合し、①木材の加工、強度、乾燥、木質バイオマスに関する試験研究と②林業の低コスト化と災害に強い森づくりを推進する林業普及指導の2本建てで、取り組んでいます。 

1 資源循環型林業を支える木材の試験研究

現在、進めています木材利用部の重要な課題は、「資源循環型林業をいかに進めるか」にあります。国有林を除く兵庫県内の民有林面積は、全国8番目の561千haありますが、そのうち戦後、荒廃した山林を保全するためにスギやヒノキが植えられた人工林が221千haがすくすくと育ち、建築用材に使える46年生以上の人工林が66%も占めるようになりました。

写真1 成熟したスギ壮齢人工林(宍粟市一宮町)

そのため、これまでの造林・保育による資源の造成期から、現在は、間伐・皆伐による資源の利用期に本格的に移行してきています。

図1 資源循環型林業サイクル

このサイクルの中で循環利用することによって、伐採後の再造林や間伐等の森林整備が適切に実施され、県土の保全、水源のかん養、地球温暖化の防止等の森林の多面的機能の発揮を確保することにつながります。

県としては、住宅・非住宅の木造化・木質化により、増加する木材資源の利用を進めてきました。住宅の木造率は、平成26年度には、10年前の45.5%(H16)から54.9%まで高まってきましたし、公共建築物も、公共建築物等木材利用促進法施行時の平成22年次8.3%から10.4%と増加してきています。

しかしながら、柱や土台、筋交い、間柱等の構造材や造作材、屋根材にはスギやヒノキは使われるものの、木造住宅の中でも使用量の高い横架材(梁・桁等)などの構造材には、強度が高いベイマツや欧州産集成材(ホワイトウッド・レッドウッド)が使用され、ややたわみやすいスギについては、特に大きな間取りをつくる際には使用が控えられてきました。

そこで、森林林業技術センターでは、成熟するスギ大径材の利用に向けて、次の試験研究に取り組んできました。

写真2 高強度梁仕口Tajima TAPOS加工の耐力試験
写真3 心去り2丁取り平角材(梁・桁)の寸法変化の測定試験
写真4 簡易な木材ヤング係数測定システムの実用開発
写真5 県産木材製品開発フォーラム(パネルデ゙ィスカッション)
写真6 県産木材製品開発フォーラム(製品展示会)
写真7 木材利用研修会(長尺大断面横架材Tajima TAPOS加工)

2 資源循環型林業を支える低コスト化や災害に強い森づくりの推進を図る林業普及指導

成熟する人工林の資源の利用として、建築用材への利用の他に、樹木の伐採や造材のときに発生した枝、葉などの林地残材、製材工場などから発生する樹皮やのこ屑などの木質バイオマスの利用を進めています。

写真8 兵庫森連バイオマスエネルギー材供給センター(兵庫の林業2016年10月号発表)

現在、平成29年12月までに、3つの木質バイオマス発電施設(赤穂市※、朝来市※、篠山市)の稼働が予定されています。※稼働中

建築用原木26万m3ほかに、未利材などの燃料用原木17万m3の安定的な供給が喫急の課題であることから、原木供給団地(H26‐30:192団地 9,600ha確保)の設置や路網整備(H26‐33:1,002km開設)、高性能林業機械(H27実績:114台)の導入促進による安定的な原木・マテリアル供給が進むよう林業技術研修会の実施を通じて若手技術者の育成を図るほか、森林作業道上を運転手による操作を省いた「無人走行フォワーダ」の実証試験(丹波市山南町)にも取り組んでいます。

写真9 無人走行フォワーダ実証試験

しかしながら、供給量の安定確保や人工林の成熟化に伴う人工林の林齢構成の平準化から、搬出間伐以外にも、山全体を伐採する皆伐が行われてきています。以前であれば、伐採したあと、そのまま放置しても、近隣の広葉樹林からの動物散布や土壌中の種が発芽して、アカメガシワ、ヌルデ、カラスザンショウ、タラノキなどの先駆性樹種による森林に回復し、その後、コナラ・ヒサカキなどの天然広葉樹林に戻ることが大半でしたが、現在、伐採収支の悪化から、再造林(苗木の植栽)が行われず、天然更新に委ねる傾向にあります。

シカの繁殖・拡大が進み、伐採跡地に生えた植生は、シカの餌となり、シカが食べないタケニグサやイワヒメワラビ、ダンドボロギク、ミツマタ、アセビなどのシカ忌避植物で覆われてしまう伐採放棄地が問題となっています

なお、伐採放棄地は、10年ぐらい経過すると伐採された樹木の根が腐ってきますので、根の緊迫力が衰え、大雨の際、土砂崩壊の危険性が懸念されます。

写真10 伐採放棄地(宍粟市)
図2 人工林にて伐採直後に植栽した場合の根系による斜面補強効果の経時変化模式図(今井久:2008)

森林林業技術センターが行った伐採跡地の植栽試験地調査では、獣害防止柵を適切に設置し、定期的な柵の点検・修理が伴わないことには、シカの食害から森林を守ることができないことが判明しました。

センターでは、専門技術員と研究員、農林振興事務所の林業普及指導員が中心となって平成28年度から「皆伐再造林ワーキンググループ」を設置し、皆伐・更新に関する指針やマニュアル等の策定に向けて、現地調査・検討会を行っています。

写真11 伐採後、直ちに行う苗木の運搬
写真12 植栽時期を問わないコンテナ苗木と植栽器具
写真13 効率的なコンテナ苗木の植栽作業