センターからひとこと

(当センターの所長、次長、各技術センター所長等が順に執筆します。)
今月は 水産技術センター増殖部長 中村 一彦 が執筆しました。

兵庫県の養殖(アサリ)

水産技術センター増殖部では養殖に関する技術開発と技術指導を実施しています。

兵庫県はノリ養殖を筆頭に国内でも有数の海面養殖の盛んな県です。

    全国2位 ノリ養殖  54,897t 全国シェア20.7%
    全国4位 ワカメ養殖  3,030t  同   6.8%
    全国4位 カキ類養殖  7,522t  同   4.1%

などが本県瀬戸内海沿岸で営まれています。

今回は、あらたな養殖として注目されているアサリ養殖と水産技術センターで開発した新技術についてお話しします。

西播磨地区のアサリ養殖は、他県産の殻長20mm程度の大型種苗が容易に入手できたことと海砂を敷いたプラスチックカゴで畜養する半年程度の短期間に殻長30mm以上にまで成長し高値で出荷できたことから始まり、次第に広がっていきました。いまでは極めて身入りが良く味が良いため、極上品として注目され、「極上アサリ」という呼び名も出てきています。

   

ところが、近年、全国的に天然アサリの資源状況が悪化し、品不足、質の低下、単価の上昇で養殖用種苗の入手が困難になり、種苗の確保が切実な問題となってきました。また、他県での生育期間に比べて県内での畜養期間が短いため、小売り段階の表示で「兵庫県産」と標記できないという問題点も顕れてきました。このため、県産種苗供給への期待が高まっていました。

一方、県では放流を念頭に、アサリの人工種苗生産に取り組み、県栽培漁業センターにおいて殻長5~8 mmの小型種苗の大量生産技術を確立していました。しかし、これらを殻長20mm養殖種苗に育成するためには、陸上水槽で長期間飼育する必要があり、経費も大きく大量に供給することが難しい状況でした。

このため、水産技術センターでは、県産の小型種苗(殻長5~8 mm)が活用できる養殖技術を開発しました。小型種苗を細かい目合いの網カゴに、砂より比重の小さい濾過材(粒状の無煙炭:アンスラサイト)を敷き詰め、その中に小型種苗を高密度に収容し、海中につり下げて養殖を開始します。殻長20 mmにまで成長すると、従来から実施している海砂を敷いたプラスチック製カゴに移して養殖を続けます。

   

この一連の養殖技術を普及することで、県で大量生産可能な小型種苗を用いたアサリ養殖ができるようになりました。高騰している天然の大型種苗と比べて価格は安く抑えられ、養殖業者にとっては大幅なコスト削減が可能となります。また、安定した生産ができる強みも加わり、ブランド化をさらに進めることが可能となりました。

平成28年度では、県栽培漁業センターで生産した殻長5~8mmの小型種苗(約100万個)を、西播磨地区の室津漁協、岩見漁協等の漁業者32経営体が養殖しています。順調に生育し、平成29年3月上旬現在、大きいものは殻長35mmを超え、極めて身入りがよく味の良い県産極上アサリとして出荷され、地元の直売所で販売され始めています。

 

水産技術センター増殖部では、養殖技術の研究開発を県内水産業の振興に役立てることを願っています。