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センター雑感

当センターの各部署が順に担当して、季節の風景や出来事など様々な話題を紹介します。
今月は 農業技術センター 農産園芸部 課長 杉本 琢真が担当します。

研究は粘り強く、チャレンジ精神をもって 人との出会いを大切に

私は大豆・酒米の新品種の開発を専門にしています。今回は研究をしていて感じたことをご紹介します。

皆様、1つの品種をつくるのに、どれくらいの期間が必要だと思われますか?

通常、1つの品種を開発するには10年以上が必要です。

品種を開発する前には、まず生産者や実需などの「要望」を調査します。次に①今の品種よりも美味しい品種を作る、②病気に強い品種を作る、③背丈が低い品種を作る、など「目標=ビジョン」を立てて、「交配(かけ合わせ)の相手」を選び、かけ合わせをして、品種の開発を行っていきます。

しかし、開発を行っている間に、時代や情勢の変化で「要望」や「ビジョン」が変わってしまう場合があります。また、品種を作っても、直ぐに利用されない場合もあります。そのお話を少しします。

私が開発に携わったウイルス病抵抗性の黒大豆品種「兵系黒4号」を1つの例に挙げます。今から18年前(平成13年)に、現場からウイルス病抵抗性の黒大豆品種の育成が求められ、研究を開始しました。しかし、研究の途中で情勢が変化し、研究が休止に近い状態になりました。

でも、諦めることなく、細々とですが、こつこつ研究を続けました。このまま世に出ることなく終わってしまうと寂しいな?、と思っていた平成27年度の4月に、上司から「この品種は重要な兵庫県の宝であるため、品種登録が必要です。」と意見を頂きました。そして、その年に品種登録の申請をすることができました。非常に嬉しかったです。その後、話が展開して、平成28年度より養父市で試作が開始され、小規模ですが、枝豆として試験販売がされました。ウイルス病抵抗性ですので、莢がきれいで、販売がとても好評でした。そして、上司の力強い支援もあり、莢がきれいな枝豆品種として、令和元年度は県下6箇所で試験栽培され、道の駅やスーパーなどを通して、世に出ようとしています。

   

次は酒米「兵系酒85号(現在、Hyogo Sake 85)」の例を挙げます。「兵系酒85号」は昭和61年に育成が開始されました。その当時の目標は、早生で(早く収穫が出来る品種)、多収の酒米の品種をつくろうという内容でした。研究開始から18年後の平成14年に「兵系酒85号」として品種が開発されたのですが、当時は酒米「五百万石」が主力であり、新品種を求める動きがありませんでした。そのため、平成27年度までは細々と品種の維持のための小規模栽培をしていました。しかし、平成28年度に次世代酒米研究プロジェクトが開始され、プロジェクトの基幹品種として取り上げたことを契機に、海外輸出用の酒の原料米として、全国で初めてのローマ字表記の米品種として、「Hyogo Sake 85」という名前がつけられました。消えてしまいそうな品種が、息を吹き返した瞬間です。この品種に期待しているという酒蔵さんにお世話になり、試験醸造と試験販売もしていただくことになりました。「Hyogo Sake 85」のお酒は香りが高く、販売も好調です。現在は丹波地域を中心地に栽培が拡大しつつあります。

このように試験研究では研究結果が出ても直ぐに、成果に繋がらないことも良くあります。年月が経ってから、時代の変化で良い成果が得られることもあります。

育成した品種は我が子のように可愛いものです。生まれてくるすべての品種が世の中で活躍するわけではありませんが、将来のニーズを常に考えながら、研究することはとても重要だと感じています。そのため、色々なバリエーションの品種を予め育成しておく必要があります。

それらが、世の中に貢献できるように、時代のニーズを捉えながら、世に出せるように、日頃から、品質が良く、収量が高くなるような栽培方法を開発していくことが重要だと思っています。

研究は諦めることなく、粘り強く、転がってでも、前に進んでいけるように、人との出会いを大切に、常にチャレンジしていくことがとても大切だと感じています。