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センター雑感

当センターの各部署が順に担当して、季節の風景や出来事など様々な話題を紹介します。
今月は 水産技術センター 水産環境部 課長 宮原 一隆 が担当します。

海の中の季節変化

私たちが暮らす陸上と同じように、海の中でも季節が刻々と移ろっています。ただ、その変化の具合は、陸上の季節感とは大きく異なります。今回は、季節を示す指標のうち、水温の変化について少しご紹介してみます。

まずは、水産技術センターの敷地内に設置されている気象庁アメダス(明石)の気温と、近接する明石海峡部の水温の月平均値を比べてみましょう(図1)。明石の気温は1~2月に年間で一番低くなり、その後7~8月にかけて上昇し、秋から冬にかけて低下していきます。この気温の変化は、みなさんの一般的な季節感ともおおむね一致していると思います。

   

一方、水温(明石海峡の月平均水温)は2~3月に最も低く、8~9月に最も高くなります。このように日本の周辺海域では、表層の水温は気温の変化に約1か月遅れて変化するため、陸上での季節感と比べると春の水温は低めに、秋の水温は高めに推移することになります。グラフを眺めると分かりますが、ゴールデンウィークの頃とクリスマス前とでは、ほぼ同じ水温(15~16℃)が観測されています。意外に思われる方も多いのではないでしょうか。

同じ海水温でも、観測水深が変わると季節変化の様子も変わってきます。次に、兵庫県但馬沖(日本海)の月別水温変化を水深別に比べてみましょう(図2)。表層の水温が8~9月頃に最高値を示す、明石海峡の場合と同じです。その後、季節が進むについて表層水温は低下していきます。しかし、観測層が深くなると様子が異なります。年間の水温ピークはどんどん遅い時期となり、50m深では11月、100m深では12月が一番暖かい時期となります。つまり、陸上でこれから冬を迎えようとする頃に、日本海の50~100m深では「(陸上の季節感での)夏」を迎えることになります。この、まるで南半球のような逆転現象も、一般にはあまり知られていない観測事実だと思います。関連して、時に「珍現象」としてマスコミに取り上げられたりすることもある南方系や中深層性の海洋生物の採捕事例も、夏よりも秋から冬の時季により多く発生する傾向があります。

気温と水温の変化の違いは、大気と海水の比熱、すなわち同じ熱量でどの程度温まり(冷え)やすいのか(にくいのか)という性状が大きく異なることが主な原因です(他にも気流や海流の影響もあります)。また、海洋の深い層での秋から冬にかけての水温上昇は、海水が鉛直方向に混ざり合う際の熱の伝搬が順々に深い層まで進んでいくことと関係しています。これらの環境の変化は、当然ながら海の中で生活する生物の分布や回遊などにも大きな影響を及ぼしていますが、陸上での季節と同じく変化のタイミングや度合いは毎年同じではありません。このため、定期的な海洋観測調査は、地味ながら私たち水産技術センターの試験研究業務全般に関わる重要な仕事となっています。

さて、陸上では暑い夏が過ぎ去って、とても過ごしやすい季節となりました。機会がありましたら、海の中の季節の変化にも思いを馳せていただければ幸いです。