東播磨地域では、かつて大量のウチムラサキが生息し、「本荘貝(ホンジョガイ)」と呼ばれ、この地域を代表する特産貝として扱われていたのを、皆さんはご存じでしょうか。
「ほこ突き」という独特の漁法で、1960年代には約1,000トン漁獲されていましたが、1970年代に激減し、1990年代には、ほとんど漁獲されなくなりました。現在では「ほこ突き漁」は行われていません。
しかし、最近、ウチムラサキが、この海域で復活の兆しが見られます。水産技術センターの調査でも、底質に礫(れき=石ころ)の多いところに分布していることが判明しています。
ウチムラサキは、成貝の殻付重量が300gに達する比較的大型の二枚貝で、深さ5~10mの浅い海域を中心に、海底から30cmほど潜り、水管を伸ばして、海水中の植物プランクトンを濾過します。
東播磨地域をはじめ本県瀬戸内海域は、ノリ養殖業が重要な漁業となっており、全国有数の生産量を誇っていましたが、近年、色落ち問題が頻発しています。ノリの色落ちとは、海水中の栄養塩不足によりノリ中の色素含有量が低下し、外見上の色調が褐色を呈する状態のことを言い、色落ちしたノリは味も悪く商品価値は著しく低下します。
海域の栄養塩濃度の低下の原因の一つとして、ノリ養殖時期における大型珪藻ユーカンピアなど植物プランクトンの大量発生があげられます。この大量発生によって、ノリに必要な栄養塩が取り込まれてしまいます。
かつて東播磨海域に多量に分布していたウチムラサキは、これら植物プランクトンを摂餌するとともに、養殖ノリに必要な栄養塩を排出するので、ノリの色落ちを防止し、健全な漁場環境の維持に重要な役割を果たしていると考えられています。生態系モデルによる試算でも、ウチムラサキやアサリなど二枚貝の増加によって海域の栄養塩濃度が上昇することが示されています。
こうしたことから、水産技術センターでは、ウチムラサキの増殖対策に取り組んでいます。ウチムラサキの種苗生産技術の開発や好適な生息条件の把握等の調査・研究を行い、ノリ色落ちの原因プランクトン密度を低減し、漁場の栄養塩環境を安定化させるためのウチムラサキ増殖ガイドラインを作成することとしています。