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センター雑感

当センターの各部署が順に担当して、季節の風景や出来事など様々な話題を紹介します。
今月は【生物工学部】が担当します。

地域特産作物のDNA

昨年は何かと農産物や食品の偽装が世の中で問題となった年でした。

そうした中で注目されているのがDNA鑑定です。実際にウナギの産地や特産鶏の判定にDNA鑑定結果が偽装解明の証拠として活用されています。しかし、こうしたDNA鑑定も対象となる農産物により難易度が異なります。稲の品種のように公的な研究機関で種子(原種)の管理がきちんと行われている作物では確実な判定が行えますが、本県の地域特産物である「丹波黒」の様に地元農家が種子を維持してきた作物ではDNAでの品種判定は難しい場合があります。

DNAは、4種類の塩基(文字の様なもの)で記述された生物の形を決める設計図ですから、形が似ていればDNAも当然よく似ています。しかし、このDNAは、生物にとって設計図としての意味のある部分と、ほとんど意味が無い(設計図として利用されていない)部分があります。こうした意味の無いDNAは多くの場合非常に変化に富んでいるので、品種や系統の違いを識別するのに役に立ちます。特にマイクロサテライト(SSRとも呼ばれる)と呼ばれるDNAは、他のDNA領域に比べて変異が生じ易い事が知られています。それ故に、マイクロサテライトDNAの比較は、品種・系統の違いを識別するのに有効です。

一般的に、偶然に起こったDNAの変異はその生物が生きて行く上で不利であったり、人間が利用するに当たって不都合がある場合はいずれ排除されてしまいます。しかし、上述のような設計図として意味の無いDNAに起こった変化は、時間の経過とともに蓄積されることになります。丹波地域の黒大豆ように長年一定の地域で栽培されてきた作物では、当然そうした多様なDNAの変異が観察されるわけで、そのことは長年その土地で栽培されてきたことの証であり、歴史を示す年輪の様なものです。そのため、地域の特産作物のDNA鑑定にあたっては、その遺伝的なばらつきの程度を十分調べてからでないと正確な判断を下すことができません。

丹波地域の黒大豆についてはそのブランド的な価値が高まる中で、商品流通上は限られた系統を「丹波黒」として定義してゆくことが求められています。このことは、DNAによる品種判別という観点からも望ましいことですが、そうした定義にあたっては「丹波黒」という地域の財産が地元の農家によって守られてきたものであるという視点を忘れてはならないと思います。

   
マイクロサテライトDNAの電気泳動による比較