トップページへ

センター雑感

当センターの各部署が順に担当して、季節の風景や出来事など様々な話題を紹介します。
今月は森林林業技術センター 資源部 普及担当 専門技術員 岩村 裕が担当します。

~ 森林・樹木が二酸化炭素(CO2)を吸収・貯蔵する量 ~

産業革命以降、化石燃料の使用等により、地球の大気中CO2濃度が年々増加して地球環境の悪化を招き問題となっていますが、森林・樹木がCO2を吸収して貯蔵していることはよく知られていることです。今回は、その森林・樹木がCO2を吸収・貯蔵することについて、お話ししましょう。

気象庁が平成21年5月9日に発表した調査結果によると、2008年は大気中のCO2の年平均濃度が過去最高を記録しました。過去10年間で、1年当たり1.9ppmの割合で増加しているという。岩手県大船渡市綾里では388.5 ppm、東京都小笠原村南鳥島では386.6ppm、沖縄県与那国島では388.0 ppmと3地点すべてで、年平均値が最高となったそうです。綾里では、この3月~4月には、395.3 ppmを記録しており、1987年の観測開始以来、濃度が37.3ppm増加していることになります。

南極の氷から推定した過去1千年間の大気中のCO2の濃度は、1800年頃までは、280 ppm前後で安定していたということでありますから、濃度の急上昇は、気温や海面の上昇をはじめ深刻な地球環境問題に直面することとなりました。

さて、森林を構成している一本一本の樹木は、大気中のCO2を吸収して光合成行い、炭素を有機物として幹や枝などに蓄え成長します。

しかしながら、森林による大気中のCO2を吸収・貯蔵に関しては不明な点も多くあります。正確な吸収量を見積もるためには、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)に認められた方法によってのみ採用されるため、当森林林業技術センターをはじめ、各都道府県の林業試験研究機関から精度の高いデータ(枯死木・リター・土壌中の炭素量等)が(独)森林総合研究所に集められました。同研究所では、2007年5月に、京都議定書に対応した森林のCO2吸収量の算定方法を開発しIPCCに報告しました。

それでは、森林や樹木は、いったい、どの程度大気中のCO2を吸収、貯蔵をするのでしょうか。

○ 一本の樹木はどれぐらいのCO2を吸収するのか

樹種(スギ、ヒノキ、マツ、広葉樹など)によって、吸収する量が異なります。

建築材に使われるスギは、成長がよいので、吸収量が多く、30~40年生のスギの立木1本では、1年間に12~17kgのCO2を吸収し幹や根に貯蔵します。

吸収する量は、樹齢によっても変わってきます。特に若い樹木の方がよく吸収します。

○ 森林全体では、どれぐらいのCO2を吸収・蓄積するか

1ha(100m×100m)の森林のCO2吸収量=蓄積増分(幹の材積成長量m3/ha)/年×枝根係数(拡大係数 樹種・林齢により1.15~2.55)×容積密度(樹種により0.314~0.619t/m3)×炭素含有率(0.5)×CO2換算率(44/12)で求まります。

例えば、適切に手入れされた80年生のスギの人工林では、1ha当たり約620トン(1年間当たりの平均で約7.8トン)、同じく80年生のブナの天然林では、約370トン(1年間当たりの平均で約4.6トン)程度のCO2を蓄えていると推定されています。

我が国の森林が1年間に蓄えるCO2量は、8,300万トン程度と考えられています。

○ 私たちの暮らしの中のCO2排出量と比較してみよう

自家用自動車1台が1年間に排出されるCO2量は、80年生のスギの人工林約0.3ha(スギ約160本)の年間の吸収量と同じぐらいです。

1世帯から1年間に排出されるCO2量は、80年生のスギの人工林約0.8ha(スギ460本)の年間吸収量と同じぐらいです。

○ 間伐(山の手入れ)をすると、吸収量が増加するか

(独)森林総合研究所で行われた研究によると、間伐した森林では、成長が促進される訳ですから、林内に残ってさらに成長した木と間伐で搬出された木のバイオマス(幹、枝、根の合計量)は、間伐をしなかった森林より多くなることがわかっています。

森林によるCO2吸収が、地球温暖化の抑制にはたす影響がより理解されるようになることが期待されます。