顕微鏡で見る木材の美しき組織構造 ―適材適所の原点―
【まずは樹木の太りかた】
樹皮の内側には,樹木を太らせる細胞の集まり(形成層,けいせいそう)があります。形成層は,内側に細胞を分裂しながら自分自身を外側に押し出します。内側に分裂した細胞の集まりは,樹木では木部と呼ばれ,伐採後には木材と呼ばれます。外側へ押し出された形成層は,自分自身の輪郭を広げるため,横にも細胞を分裂します。形成層は外側へも細胞を分裂します。それらは樹皮となり,幹が太るにつれ,徐々に外側からはがれ落ちます。
【顕微鏡で見る木材の構造】
針葉樹材はシンプルな構造をしています。仮道管(かどうかん)と呼ばれる細胞が95%前後を構成しているためです。仮道管の長さは3mm程度,幅は数十μmであり,樹木の軸方向に長い構造をしています。形成層の活動が盛んな春~夏に形成された早材(そうざい)の仮道管には,樹木が成長するために必要な水分を根から葉へと円滑に移動させるためにたくさんのすき間があいています。一方,夏~秋に形成された晩材(ばんざい)の仮道管は,壁を厚く,すき間を少なくすることで,樹木自身の重みを支えています。つまり,年輪はすき間の多い仮道管が集まった早材部と,すき間の少ない仮道管が集まった晩材部との組み合わせによってできています。
隣接する仮道管の壁には穴があいており(これを壁孔(へきこう)と呼びます),水分はこの穴を通って隣の仮道管,また穴を通って次の仮道管,というように移動しながら徐々に上昇していきます。
広葉樹材では,針葉樹材の早材仮道管よりもさらに大きなすき間を見ることができます。これらは樹木内で水分を上昇させる役割を担っていた道管(どうかん)です。クリやミズナラでは,鋭利なカミソリで木口面を削ると,肉眼でも容易に道管が確認できます。広葉樹では,道管のまわりを埋めている木部繊維(長さ0.3~2.5mm程度,直径10~60μm程度)が樹体を支える役割を担っており,針葉樹よりも機能が専門化しています。
木材には樹種ごとに様々な形態的特徴があります。これらの特徴は,材質や強度,加工・透過・断熱性などのほか,耐久性などにも影響してきます。これらの形態的な特徴に成分的な樹種特性も合わせ,それぞれの特長を整理して活用することが,理想的な木材利用方法,「適材適所」といえるでしょう。