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センター雑感

当センターの各部署が順に担当して、季節の風景や出来事など様々な話題を紹介します。
今月は但馬水産技術センター 主任研究員 長濵達章が担当します。

市場で会える魚たち

但馬水産技術センターの研究員は、魚介類が水揚げされる漁港の市場に直接出向いて、その種類や大きさ、量などを計測する調査を行っています。市場にはタイやヒラメ、アジといったほとんど一年中見られる魚だけでなく、ズワイガニやソデイカ、ワカメというような季節限定の魚介類も水揚げされ、季節や担当者ごとに調査対象種を定めています。

その日の調査が一段落すると、水揚げされた魚介類を見ながら、漁業者や漁協職員、仲買業者さんといった方々と話をすることもあります。最も多い話題は漁模様や海況情報等ですが、時に変わった魚が水揚げされると、「この魚の名前は何ですか?」といったような質問を受けます。仕事柄、但馬地区の漁港に水揚げされる魚介類の名前はおおむね知っているつもりですが、希に全くわからないこともあります。その場合は写真を撮ったり、標本を研究室へ持ち帰ったりして、図鑑や文献を参考に種類を検索します。それでもわからない場合や判断に迷った時には、関係する大学や博物館の方々に問い合わせをすることもあります。

名前の判明した魚介類については、その特徴や分布域、食用の可否等の情報を取りまとめ、問い合わせのあった方々に情報提供するようにしています。当センターには過去20年近くの記録が残されていて、魚類のみならず、軟体類や甲殻類をあわせると延べ200件ほどの記録があります。記録数は年により差はあるものの、平均すると1年間に10件程度の問い合わせがあったことになります。記録の中には、もともと但馬海域での生息例がなかった生物、体色や形が変わった生物など様々な報告例があり、時には私たちを驚かす生き物まで出現します。

下の写真は、今年の1月に香住漁港に水揚げされた「リュウグウノツカイ」という深海魚です。私自身、実物の生鮮魚体を見るのは初めてでした。一般的には海岸などに打ち上げられている個体が発見されることが多いことから、標本としては傷んでいる場合も多いようです。しかし、今回は大型定置網に生きた状態で入網していた魚体を水揚げしたものですから、死後数時間程度しか経っておらず、全体的には非常にきれいな状態でした。全長約4m、体高は約25cmと細長く珍奇な体形で、魚体は銀色に輝き、ヒレは鮮やかな朱色といった状態で、非常に幻想的な生き物に見えました。

魚類図鑑によると*1、「主生活域は沖合深層で、稀に沿岸域に漂着.稀種.」、日本近海での分布域は「銚子沖~鹿児島湾、青森県沖~北九州.」とされており、どちらかと言うと珍しい標本のようです。今回はこの但馬での報告の前後にも、西日本の日本海側でいくつかの報告があったようで、一時期テレビや新聞などを賑わしたこともあり、記憶に残っている人がいるかもしれません。いったい彼ら(もしくは彼女たち?)がどのような理由で、突如深海から但馬の沿岸に現れたのかはよく分かりませんが、深海からゆっくりと浮かび上がってくる姿を想像するだけでも楽しいものです。

今回のお話はあくまで一つの例ですが、漁港の市場ではこれまで皆さんが見たこともないような生き物に出会える機会があるかもしれません。もしよければ少し早起きして、近くの港の魚市場を覗いてみてはいかがでしょうか?何か新しい発見があるかもしれませんよ。ただし、くれぐれも市場で働いている人達に迷惑をかけないようにお願いします。

   
左:漁船上に横たわるリュウグウノツカイ。全長約4mと非常に細長い体形です。
右:リュウグウノツカイの頭部。吻部と鰓蓋は弱いようで、形が崩れています。目の上から始まる背鰭はきれいな朱色で、特に前端の6本は太くて著しく伸長し、1m以上の長さがありました。