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センター雑感

当センターの各部署が順に担当して、季節の風景や出来事など様々な話題を紹介します。
今月は淡路農業技術センター 農業部 主任研究員 西口真嗣が担当します。

培養できない病原菌

植物病害の病原体には、大きく分けて糸状菌、ウイルス、細菌などがあります。このうちの糸状菌による病害が全体の約75%を占めています。病害を研究する際に欠かせないのが、病原菌の培養です。培養することにより、実験室内で病原菌の保存が可能になる上、病原菌の基本的な性質や生態が調べやすくります。また、殺菌剤などに対する感受性も室内で検定することができるため、圃場試験を実施する際の供試薬剤を絞り込んだり、耐性菌の検出などが容易に行うことができ、研究を効率的に進めることができます。

しかし、糸状菌による病害の中でも、べと病の仲間は培養が不可能です。このような、培養不可能な菌のことを、絶対寄生菌といいます。培養できないと研究がなかなか進まず、病原菌自体を保存しておくことさえ困難です。そのため、べと病を研究対象とする研究者はごくわずかであり、研究成果が短期間に求められる時代においては、なおさら敬遠されています。

淡路島は、秋冬野菜の産地です。全国的に有名なタマネギをはじめとして、レタス、キャベツ、ハクサイ、ブロッコリーなどいずれも夏の終わり頃から栽培が始まり、田植えまでに栽培を終える作型です。これらの野菜では、いずれもべと病が問題になっています。タマネギべと病は昭和30年代から、たびたび産地に大きな被害を与えてきました。レタスべと病はつい数年前に大発生し大きな被害となりました。キャベツでは苗床の時期にべと病が発生し、近年増加傾向です。ハクサイでは、俗に「茎べと」と言われる障害が発生します。ブロッコリーには「花蕾べと」と言われる症状があり、全国的に問題になっています。

何故、このようにべと病が問題になるのでしょうか。べと病菌は、比較的低温性の病原菌です。そのため、秋冬栽培では温度条件がべと病菌の生育に大変適しています。つぎに湿度です。秋冬栽培においては、トンネル栽培やトンネルサイドを締め切った状態での育苗が行われます。そうすると夜間の相対湿度は100%近い状態が継続し、多湿条件を好むべと病菌にとっては絶好の環境となります。加えて、最近の異常気象です。長雨が続く事により、多湿状態が長期に維持されると、べと病が蔓延しやすくなります。作物によって発生時期に違いがあるから、発生時期に発生しやすい気象条件になった作物のべと病が多発生することになります。

淡路農業技術センターでは、レタスべと病やタマネギべと病の防除対策に取り組んできました。レタスべと病については、室内培養できる手法を開発したため、菌株の維持ができており、各種試験を行うことが可能になりました。しかし、タマネギべと病については、未だ成功していません。まだまだべと病との闘いは続きそうです。

   
左:タマネギべと病、右:レタスべと病