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センター雑感

当センターの各部署が順に担当して、季節の風景や出来事など様々な話題を紹介します。
今月は森林林業技術センター 木材利用部 林業専門技術員 廣岡 充生が担当します。

竹林にもシカ被害!?

西日本各地の里山で放置された竹林が拡大し、隣接する人工林や耕作地に侵入したり、周りの生態系などに影響を与えることなどから、その拡大をくいとめる対策が里山管理の課題となっていますが、元々竹林は竹材や筍(タケノコ)を採取する目的で里山の麓近くで管理され利用されてきました。竹冠に旬と書いて筍と言うように、今でも筍はまさに旬の味として春先に結構な値段で販売されていますし、自分の竹林で取れた筍を知り合いなどに送ってあげると大変喜ばれます。

その拡大で邪魔者扱いされる竹林ですが、実は場所によっては竹林にとっても困ったことが起きています。県内で増え続けるシカの被害が竹林にも及んでいます。筍がイノシシの食害に遭う話は時々聞くことがありましたが、数年前から私の地域(太子町)では筍をシカに食われる被害が顕著になってきたのです。

筍はその穂先が地面から出るかでないか、ほんの少し顔を出したぐらいの時に地中から掘り出してやると柔らかくて美味しいものが収穫できます。シカはまずこの穂先を見つけてこの新芽をかじります。穂先をかじられただけなら筍の食べる部分に影響はありませんが、そのまま商品として出すにはおそらく駄目でしょう。地上に出てきた筍のほとんどは、丸ごときれいに食べられてしまいます。筍堀りはまさにシカとの競争となっています。適当に間引いてくれるくらいならいいのですが、どれもこれも食べられてしまうので困ります。そのことで本当に困るのは、筍でなく、次代の竹そのもの(親竹)を残すことができないことです。

筍は竹から地中に伸びる地下茎から出てきます。竹は普通3年生から5年生くらいの間に最もよく筍を出すようで、それ以降は漸減します。ですから毎年、次代の親竹を残すために筍も残す必要があります。太い筍は太い竹の茎から出ますので立派な筍をいくらか残しながら、その秋に古い竹を伐採して、100㎡当たり20~40本くらいの密度管理をすると筍を収穫するのによい竹林になるようです。ところがシカ被害のためにこの竹林管理が思うようにできなくなっています。

兵庫県では、増え続けるシカ対策として、年間3万頭以上の捕獲計画を進めていますが、県下全域に効果が及ぶにはまだ時間がかかるようで、私の地域でも畑などをシカの防護ネットで囲む農家が増えています。

私の地域は昨年が筍の大豊作の年でしたが、やはりシカにやられてほとんど親竹を残せなかったことから、この春は防護対策として、条件の良い一部の竹林をネットで囲いました。また、他の複雑な地形のところでは、サプリガードという、本来は植栽木を単木的に囲ってシカの食害から守るためのプラスチック製の防護ネットを、残したい筍に設置して食害を防げないか試してみました。

この春は昨年と反対に大凶作で数えるほどの筍しか出ませんでしたが、ネットで囲んだ区域の筍は無事でした。しかし、サプリガードは地際にわずかでも隙間が開いていたものは、そこから鼻をつっこんで(?)プラスチック製のネットを押しのけて見事に根元からかじられていました。「そこまでやるか!」とショックでした。

凶作だったので、シカも食べるのに必死だったのかもしれません。来年は筍ももう少し多く出ると思われるので、サプリガードの設置方法に今年の教訓を生かして親竹を残したいものです。

それにしてもシカのおかげで、どれだけ余計な労力とお金がいることでしょう・・・。個人的なわずかな竹林だけでもこのような有様ですから、農林業に及ぼすシカ被害がいかに甚大で、その対策が大変なものか身をもって知らされます。

   
左:ネットで囲った竹林、右:サプリガードで保護した竹