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センター雑感

当センターの各部署が順に担当して、季節の風景や出来事など様々な話題を紹介します。
今月は但馬水産技術センター 主任研究員兼研究主幹(調整担当) 森 俊郎が担当します。

さ か な 屋 さ ん の 悩 み 事

水産食品を扱う業界では、消費者ニーズに対応するため、水産物の鮮度保持、加工品の品質向上や安全性の確保、新製品開発など日々多くの努力がなされており、それに関連していろいろな技術的問題が発生しています。

しかし、兵庫県では小規模な加工屋さんが多く、科学的根拠を持ってこれらの問題を解決するのはなかなか難しいようです。

県立農林水産技術総合センターでは、水産食品業界で日々発生している問題点を解決し、業界の振興を図ることを目的として、県下全域から寄せられる各種加工相談への対応を行っています。

ここでは、私が今までに受けた加工相談から、さかな屋さんの悩み事について覗いてみます。

どれくらい?

過去30年間に対応した加工相談件数の推移を見ると、昭和56 ~ 63年度までは年間400件程度でしたが、平成元年度から徐々に増加し始め、平成9~15年度には800件を超えるようになりました。平成16年度以降は700件程度が続いています(図1)

   

どこから?

加工相談の依頼元を業種別に見ると、加工屋さんが最も多く、約半数を占めています。(図2) 地域別では、日本海側が半数以上、瀬戸内海側が約1/4の割合です。(図3)これは、日本海側に小規模な加工屋さんが多いためです。

   

どんなことを?

加工相談を内容別に見ると、最も多いのは「加工技術に関すること」で、全体の約1/4を占めており、統計を取り始めた1993年(平成5年)以来、毎年150~200件程度寄せられています。(図4) 次に多いのは「成分・品質に関すること」で、毎年100件程度寄せられています。(図5)

   

また、以前は多かったが最近減ってきている内容や、逆に以前は少なかったが最近増えてきている内容もあります。

最近減ってきている内容は、「機械・資材に関すること」 と 「食品添加物に関すること」 です。(図6,7)

   

逆に最近増えてきている内容は、「保存性に関すること」、「異物・衛生・微生物に関すること」、これらに関するいろいろな「法律(食品衛生法、JAS法、健康増進法、他)に関すること」です。(図8,9,10)

   

なんでか?

最近になって相談件数が増減したり、相談内容が変わってきたのは、次のことが大きな要因と思われます。

  1. 消費者ニーズの多様化に対応するため、従来からある加工品の品質保持に加え、新製品開発や新技術の導入に関する問題点の解決方法や情報入手の必要性が増したため。(図4)
  2. 加工業者の世代交代によって、新技術の導入や新分野への参入意欲が増してきたため。(図4)
  3. 慢性的な労働力不足に対応するため、加工工程に機械を導入する必要性が増したものの、最近は景気が悪く、設備投資が困難になってきたため。(図6)
  4. 1996年(平成8年)のO-157問題をきっかけに、製品の安全性について、市場から製品の保存性や微生物に関する情報提供の依頼が増えたため。(図8,9)
  5. 1997年(平成9年)4月から始まった期限表示に対応するため、自社製品の賞味期限を科学的根拠に基づいて正確に設定する必要ができたため。(図5,8,10)
  6. 食品の安全性に関する意識の高まりをうけて、消費者や市場に対して製品の品質を数値で把握し、客観的にわかりやすく情報提供する必要性が増す一方で、食品添加物を出来るだけ使わないような品質保持が必要になってきたため。(図5,7,9,10)

加工相談への対応は、県産業への行政サービスの一つとして行っていますが、相談内容はその時代の業界のニーズをリアルタイムで把握できる重要な情報源となっており、研究テーマ設定の原点ともなっています。

県立農林水産技術総合センターでは、加工相談に含まれるさかな屋さんの声を大切に、これからも業界に役立つ仕事を続けていきたいと思います。