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センター雑感

当センターの各部署が順に担当して、季節の風景や出来事など様々な話題を紹介します。
今月は水産技術センター 資源部 部長兼研究主幹 岡村 武司が担当します。

水清ければ・・・・・・

5月22日に開業した東京スカイツリーの賑わいが連日テレビや新聞で報道されています。前日には日本の広い範囲で見られるものとしては実に932年ぶりという金環日食が、つかの間の天体ショーとして多くの国民の目を釘付けにしました。あわせると経済効果2,000億円とも試算されるビック・イベントの連続で、今、世の関心は空に向けられている感がありますが、水産技術センターの最大の関心事はやはり空よりも下界、とりわけ海にあります。

話は少し戻りますが、兵庫県の23年漁期の養殖ノリの最終共販が5月8日に終了しました。兵庫県は全国屈指の養殖ノリ生産県です。本県のノリの養殖は瀬戸内海で行われ10月から翌4月の間、各地の沿岸海域には一面にノリ網が張りめぐらされます。23年漁期の生産金額は145億円でした。生産金額200億円を超え、有明海を主漁場とする佐賀県と首位の座を競っていた1970年代後半とは較べようもありませんが、それでも、この金額は近年では豊作と言ってよいでしょう。全国順位でも金額、数量とも佐賀県に次いで第2位になりました。昨年が数量で3位、金額で4位でしたから兵庫のノリが復権したと言えなくもありません。

しかし、23年漁期の好成績は多分に天の恵みによるものです。9月の大雨により海の中には栄養塩がたっぷりあったことに加え、年明けから周期的に降雨があったことなどノリの生育条件で幸運が重なりました。また、価格面では最大産地である有明の生産数量が伸びなかったのも影響しました。

現在、ノリ養殖業における最大の課題は、海の中の栄養塩不足によるノリの色落ち問題です。当センターでは、栄養塩の不足がノリの色落ち現象にとどまらず、海域の漁獲量の減少という形でも影響しているのではないかと懸念しています。これまでの水質規制法の整備や下水道普及等は、瀬戸内海の水質改善に大きな成果をもたらし、瀬戸内海を「死の海」から蘇らせ、兵庫県の漁業の発展にも貢献しました。しかし、現在、漁業関係者から“海は綺麗になったけれど豊かさはなくなった”という切実な声があがっています。この声の真実を科学的に証明し、その対応方策を研究し、広く県民の皆さんに伝え、何をなすべきか提案していくのが当センターの役割と考えています。

今、ノリの色落ち対策として、栄養塩濃度や栄養塩を消費する珪藻赤潮の監視、下水処理施設栄養塩管理運転の効果検証、漁業にとって望ましい栄養塩環境の解明、新品種の育種技術開発など、多方面から業務や研究に取り組んでいます。とはいえ海の中のこと、残念ながら未だこれといった決定打は見出せていません。その中での降雨による今回の結果。あらためて自然の力の偉大さを感じます。どうか来漁期も雨がたくさん降りますように。前言撤回、やはり水産技術センターも空には関心を持たざるを得ません。