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センター雑感

当センターの各部署が順に担当して、季節の風景や出来事など様々な話題を紹介します。
今月は水産技術センター 増殖部 堀 豊が担当します。

旬の魚キジハタ

初夏となり、水産技術センターでは、魚や貝が卵を産み、海藻が胞子を出すなど、新しい命のサイクルが始まる時期を迎えています。

当センターの南側には直径3.6m、高さ1.2mの円形水槽があり、中を覗くと全身に橙色の斑点がある、ややずんぐりとした魚が泳いでいます。水面から顔を出してエサをねだる食いしん坊や、こちらをちらりと見てから「違うな・・・」とばかりに再び悠然と泳ぎ去る者など反応は様々ですが、目で見て・想い・行動し・学習する生態は、ヒトに近いものを感じさせます。

   

この魚は「キジハタ」で、地域により「アコ」、「アコウ」、「アカミズ」などと呼ばれています。とてもおいしくて、刺身はもちろん、吸い物、鍋、煮付けにするなど、熱を通すと一段と弾力やうまみが増し、箸でホロリと取れる身の触感もたまりません。漁獲量が少なく値段が高いことに加え、沿岸域への定着性が強く、稚魚を放流した海域での再捕率が高いため、漁業者から種苗量産技術の開発が強く望まれている種類です。

キジハタは、最大で全長50cm、2kgほどになりますが、飼育途中で性転換する個体があり、小型魚のほとんどは雌で、大型魚では雄が多くなります。産卵時には雌雄1尾ずつがペアとなって鰓(えら)ブタを押しつけ合ったまま螺旋状に泳いで浮上し、水面付近で放卵放精するという行動を見せます。雄のなわばり意識も強く、同じ水槽にどのような雌雄比で魚を収容するかにより、得られる受精卵の質や量が大きく変わります。また親魚が持つウィルスによって稚魚が大量死することがあり、感染防止も大きな課題です。

当センターでは、平成21年度からキジハタの量産化を目的として研究を進め、これまでにウィルス感染していない親魚の確保、雌雄判別と収容性比のコントロール、初期仔魚飼育方法について検討し、種苗の生残率は年々向上しています。

キジハタの他にもマガキとヒジキの種苗生産が始まり、担当研究員にとって1年の内で最も忙しい時期に突入です。