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センター雑感

当センターの各部署が順に担当して、季節の風景や出来事など様々な話題を紹介します。
今月は農業技術センター 農産園芸部 研究主幹 吉田 晋弥が担当します。

植物バイテクの時代を駆け抜けた島本先生

去る9月28日に病気で療養中だった、奈良先端大学院大学の島本功先生が63歳で永眠されました。

島本先生は、植物バイオ研究の黎明期において、プロトプラスト培養や遺伝子組換えの技術を用いた植物における分子レベルでの遺伝子機能についての研究に、早くから着手してこられました。その中でも、近年、植物の病気に対する防御反応を誘導する分子スイッチのメカニズムの解明と共に、花芽の分化(花成)を誘導する花成ホルモン(フロリゲン)の正体を解明した研究は大変注目されています。

フロリゲンとは、旧ソ連の植物学者Chailakhyanが、1936年に花芽形成において日の長さに反応する場が葉であることを突き止め、何らかの物質が葉から生長点組織(茎頂)に送られると考え、その物質をフロリゲンと名付けたのが最初です。その後、花芽形成に関わるとされるFT遺伝子の発見(1991年)などがあり、2007年に世界で初めて、島本先生らのグループにより、フロリゲンがタンパク質であり、生長点に存在する別のタンパク質と結合することにより花芽形成のスイッチが入ることが証明されました。

これらの成果を基に、現在、フロリゲンタンパクを植物組織に直接作用させる技術の開発が進められており、近い将来、花咲か爺さんの様に自由に花を咲かせることのできる時代が来るかもしれません。

一方、研究活動と共に、若手の研究者の育成にも多大な功績を残されたと感じています。20年以上前、先生がPlant Cell Reportという植物細胞工学の学術誌の編集委員をされていた頃、研究会での懇親会で培養細胞でのDNA変異の解析結果についてご意見を賜りに行った折、研究成果を論文として世に問うことの重要性、そして、サポートできることは何でも相談してほしいと目を丸くして熱く語られる姿が今でも目に焼き付いています。当時、地方農試では植物バイテクの研究に取り組む若い研究者が各府県で奮闘していましたが、豪快で気さくな語り口の先生と学会や研究会で議論するなかで、研究の方向を見いだした方は多いのではないでしょうか。

そんな、研究、人材育成の両面で卓越した力を発揮されてきた島本先生には、まだまだこれからも活躍していただくことを期待していた最中に他界されたことは、たいへん残念でなりません。謹んで、哀悼の意を表します。