在来種「チガヤ」を緑化植物として利用する
身近な植物チガヤ
チガヤ(茅、学名:Imperata cylindrica (L.) Beauv、英名:Cogongrass)は、イネ科の多年草で、空き地、田畑の畦、道路の法面など様々な場所に生育しています。枕草子の「草は浅茅、茅花いとおかし」に代表されるように、古くから風土記、万葉集、徒然草など多数の古典に詠まれている我々になじみの深い植物です。
緑化植物としてのチガヤ
チガヤは、熱帯、亜熱帯および温帯に広く分布し、風媒の種子を飛ばし地下茎で増えるため、世界の最重要害草10種のうちの1種にあげられています。しかし、根茎が土中を密に横走することから表層土の浸食防止に効果があり、我が国の気候風土に合った地域生態系の攪乱が少ない在来種であることから、緑化植物として積極的に利用できます。
地理的変異のあるチガヤ
チガヤには、開花期が早く、開花稈の節毛が無いケナシチガヤ、開花期が遅く、節毛が有るフシゲチガヤの2つのタイプがあります。この2タイプのチガヤは、開花稈の節毛の有無以外に茎の白粉の有無、葉縁のトゲの大小、実生初期の生育などに違いがあり、地域により遺伝的にもかなり相違があります。
緑化業者でチガヤの種子が販売されていたとしても外国で採種されたものが大半で、厳密には在来種(郷土種)とは言えないため植栽する近隣で採種するのが良いでしょう。兵庫県では、植栽地域の河川の水系(円山川水系、加古川水系、揖保川水系など)や旧五国(但馬、丹波、摂津、播磨及び淡路)別などでの採種です。
チガヤは、5月下旬頃から穂を出し、その種子は白い綿毛に覆われ6月中旬から下旬に成熟します。この綿毛は、晴れた日に風で飛散するためこの時期を見計らって飛び散る直前に採種します。種子には休眠性がないため、採種直後に播くことができ冷蔵庫で3年間は保存可能です。
チガヤ・ノシバ混植マットの育成と植栽
張芝の要領で植え付け可能なチガヤ・ノシバ混植マットの育成と植栽方法を示します。チガヤの植栽直後の生育はやや遅いため、チガヤだけでは植栽初期の土壌浸食の恐れがあるのでノシバと混植します。
- ノシバのソッド苗(園芸店などで販売しているマット状の切りシバ)一枚そのまま水稲育苗箱に入れます。または、ソッド苗を数センチの長さに裁断して育苗箱に敷きならし1cm程度土を入れます。この方法では一枚のソッド苗で育苗箱数枚のマットが育成可能です。
- チガヤの種子をノシバの上に播種し、雑草種子の混入していない園芸培土などを軽く覆土します。充実したチガヤ種子の場合、播種量は水稲育苗箱当たり綿毛付きで1g程度でよく均一に広がるように播きます。
- チガヤの発芽とノシバの萌芽まで、25~30℃で管理し乾燥させないよう注意します。チガヤ採種直後に播種すれば、翌年春にはチガヤ・ノシバ混植マットが完成します。
- 育成した混植マットは、5~6月頃に張芝の要領で土面を露出させた畦や法面に密着させ竹串などで固定し、活着まで乾燥させないようにします。
上記以外の方法として、チガヤをポリポットやセルトレイで育苗し25~30cm程度の間隔で植え付ける方法もあります。
機械吹き付け工法による大規模植栽
当センターと民間企業とで共同開発した特許工法(ビオ・セル・ショット工法)により448穴セルトレイで育成したチガヤ苗とノシバ裁断茎の機械による混合吹き付けにより大規模面積に効率良く植栽する方法があります。
植栽例として、淡路島公園内の「チガヤの草原」創出のため、前年6月に淡路島内で採種、7月から翌年5月までセルトレイで育苗、このセル成型苗とノシバ裁断茎の混合吹き付けを約2ヘクタール施工しました。
チガヤセル成型苗の育成は、兵庫県内のグラウンドカバープランツ生産者の栽培経験が豊富で、大量生産にも対応できる体制が整っています。
今後は従来の西洋シバの種子吹き付け緑化に代り、ビオ・セル・ショット工法によるチガヤやノシバを用いた道路法面、河川堤防や空港緑地帯などの地域生態系に配慮した緑化需要の増加を期待しています。