「研究成果の発表と特許出願」
兵庫県立農林水産技術総合センターは、傘下に農・畜・林・水の各技術センターを持ち、県の農林水産業に寄与する研究に携わっています。
私の所属する、企画調整・経営支援部は、当センターの研究者が行うそれぞれの研究をマネジメントすることが、大きな役割です。
マネジメントには、次のような内容があります。
1 農林水産業者や関係機関からの、試験研究への要望を受け付けます。
2 要望を受けて、新しい研究の実験計画作成や研究の進捗状況を側方から支援します。
3 研究結果の広報に携わります。
広報にもいろいろあります。
農林漁業者向けの成果は、講習会を開いて内容を説明したり、雑誌に記事を書いたりします。
一般市民向けの成果は、マスコミに公表したり、パネルを作って展示したりします。
最も多いのは、学会での口頭発表です。国内や海外の学会で発表します。さらに優れた成果が得られた場合は、学術誌に投稿することもあります。投稿するときには、画像を加工したり、他の論文をコピペしたりしないように留意しています。
4 研究の成果として、新しい発明ができたときは、特許化を補助します。
”職務発明審査会”を開催し、特許出願の可否を審査した上で、必要に応じて出願します。
現在、当センターでは、16の特許を保有し、6つの特許を出願中です。
5 特許の活用方法を検討し、民間企業での商品化などを模索します。
特許には、単独特許と共有特許の2種類があります。このうち、単独特許は、兵庫県が単独で保有している特許です。工夫次第で、いろいろな活用方法があります。活用のしがいが特に大きいといえます。
上記の保有及び出願中特許のうち8つが単独特許です。これらの単独特許を、上手く民間企業に使ってもらうことで、民間企業のビジネスチャンスが大きくなり、その売上の一部は”許諾料”として県の収入にもなります。
企画調整・経営支援部は、研究にとっては”縁の下の力持ち”です。マネジメント次第で、研究が上手く進み、成果を上手く活用できることもあります。
さて、このようにマネジメントを行う上で、気をつけないといけないことが一つあります。
○「学会などに公表した発明は、特許として出願できない」ということです。
一部の研究者は
○「学会発表しても、その後6カ月以内に出願すれば大丈夫」と、認識している人もいます。この認識は、法律上は正しいのですが、運用上は間違っています。
例えば、学会を公聴しにきた人の中に、発表を聞いて「この発明を特許にされると、我が社の商品は売れなくなってしまう。大損害だ。」と思う人がいるかもしれません。この人が、悪意を持って、同じ内容の出願書類を作り、発表者よりも先に特許出願したとします。
すると、その結果は次のようになります。
1 この第三者の出願は、これよりも先に学会で発表されているので、特許にはなりません。
2 発表した人の出願は、第三者によって先に出願されているので、特許になりません。
このように、出願の前に学会発表すると、その特許は、悪意のある第三者によって、極めて容易に潰されてしまうのです。出願するだけならば、特許庁への出願料は、わずか、¥15,000円です。
当センターでは、各研究者に対して、
○「出願の前に、学会発表してはいけない!」と、注意を促しているところです。