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センター雑感

当センターの各部署が順に担当して、季節の風景や出来事など様々な話題を紹介します。
今月は水産技術センター 資源部長兼研究主幹 岡村 武司が担当します。

12月に入り気候はすっかり冬の様相です。冬到来とともに水深の浅い瀬戸内海の海水温は急速に低下、いよいよ本県の冬の漁業が本番を迎えます。水温低下とともに俄然元気になるのがノリです。兵庫県は全国有数の養殖ノリの生産県で、昨漁期は豊作とはいえないまでも、その販売金額は110億円に達しています。県下各地の漁場ではノリ網の本張りがほぼ終了し、一部では摘採も始まりました。ノリの販売は全国共販方式が採用され、兵庫県は12月から翌5月までの間、ほぼ10日毎に15回程度の共販が行われます。この原稿が掲載される頃には初回共販が終了していると思われますが、良いスタートが切れることを願うばかりです。

海の栄養塩濃度の低下などによりノリの色落ち被害が起こるようになって久しいですが、今年の栄養塩の状況はほぼ平年並みの結果が得られており、今のところ生産に大きな障害はないようです。夏以降の台風や大雨による陸域からの添加が効いていると思われますが、もう一つ留意すべきは栄養塩を消費する小型珪藻が10月の台風通過後に急速に衰退したことです。この影響は小型珪藻類を摂餌するカキに出ており、これからシーズンを迎える養殖カキの成長が思わしくありません。現在、珪藻類は増加の兆しを見せ、これはこれで朗報なのですが、発生量の多い海域では栄養塩濃度の低下も確認されており、水産技術センターの人間としては複雑な心境です。このように、現在の瀬戸内海の栄養塩環境は、漁業にとって決して良好な状態にあるとは言えません。

最近、水産業界にとって残念な出来事がありました。先の臨時国会において瀬戸内海環境保全特別措置法の改正法案が廃案になったのです。ほとんど審議されないまま想定外の衆議院解散による結末です。現行法が、環境保全に関する計画策定や特定施設の設置規制、富栄養化による被害の防止などを規定した規制法であるのに対し、改正法案は新たな基本理念を新設し、「瀬戸内海を多面的価値・機能が最大限に発揮された豊かな海にすることとし、規制措置のみならず、地域の多様な主体による取組(いわゆる里海づくり)を含め、藻場・干潟等の保全・再生・創出等を湾、灘ごとの実情に応じて総合的かつ計画的に推進する」としています。また、検討条項として、瀬戸内海における栄養塩類の減少、偏在等の実態調査、それが水産資源に与える影響に関する研究、栄養塩類の適切な管理に関する研究に努め、その結果に基づいて所要の措置を講ずるとも規定しています。

この法律の改正は、瀬戸内海関係の知事・市長会議や漁連・漁協連絡協議会による10年に及ぶ地道な運動の大きな節目でした。本県の行政、研究機関も含め、長らくこれに関わってきた水産関係者の悲願であり、よもやこのような形で終わるとは誰も予想していませんでした。法律の成立が全てではありませんが、これから進める諸施策の根拠として、この法律は重要な意味を持ちます。今回は廃案となりましたが、この方向性が変わった訳ではありません。某政党の選挙公約にも瀬戸内海環境保全特別措置法の改正はしっかり書き込まれています。多少遅れますが、近い将来の改正法の成立を疑わず、現場は現場として、水産漁業センターが担う研究業務を着実に進めていきたいと考えています。

   
この魚の名前が分りますか?
 一見、メジナ(グレ)のように見えますが、これでもハタの仲間です。先月末に沼島で水揚げされ、漁師さんも名前がわからず農林水産事務所を通して当センターに照会があったものです。実はこちらでも分らず大学に送って同定してもらいました。写真は大学から提供いただいたものです。名前はトビハタ。飛びハタではなく、その体色から鳶ハタと命名されたようです。国内では琉球列島をのぞく南日本を中心に生息し、和歌山県や高知県、静岡県などで希に漁獲され、高級魚として扱われるようです。近年、温暖化のせいか、南方系の見慣れない魚が見つかるケースが増えています。これらのデータ蓄積も研究機関の重要な役割です。