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センター雑感

当センターの各部署が順に担当して、季節の風景や出来事など様々な話題を紹介します。
今月は農業技術センター病害虫部 研究主幹 神頭 武嗣が担当します。

植物の病害診断について

病害虫部では、兵庫県の「環境創造型農業」を支援する防除技術として、化学農薬のみに頼らない、物理的(光質・熱など)、生物的(拮抗菌・天敵昆虫など)防除法の研究に取り組んでいます。

しかしながら、防除技術を開発する前段階として、今まで発生していなかった病害虫が新たに発見されることもしばしばあります。

農作物が病害虫に侵されると、葉に斑点を生じたり、葉が食害されてなくなったり、黄化、萎れ(しお)を生じたりすることがあります。その原因をきっちりと診断してこそ、防除対策に取り組むことができます。

そこで、今回は農作物の病害を診断・同定し、国内で初めての新病害として報告された病害の一部について、紹介します。

1 ハボタン黒腐病

Xanthomonas campestris pv. Campestris という細菌によって引き起こされる病気で、初め葉の裏面に針頭大で暗緑色の水浸状斑点が現れ、やがて拡大し、3~5mmの不整形、中央が灰白色、周辺が黒褐色の病斑となります。同時に葉縁部からV字型に黄化し、葉脈が黒変するキャベツ黒腐病類似症状も認められます。導管部は褐変します。

本病の伝染源は汚染種子と汚染土壌です。病原細菌は、被害茎葉とともに土壌中に存在し、伝染源となります。降雨などの水滴とともに自然開口部(気孔、水孔)、傷口より侵入し、導管を通って増殖します。種子にも感染し、種子伝染します。台風など強い風雨の後、急激にまん延します。ハボタンでの発生は主に秋です。品種間差も存在します。

   
水浸状の斑点と典型的なV字症状

2 レタスバーティシリウム萎凋病

主にVerticillium tricorpus という糸状菌(カビの仲間)によって引き起こされる病気で、秋期~冬期、主に茎(クラウン)及び葉に発生します。下葉が黄化萎凋し、クラウン部分が褐変および緑化します。褐変部は維管束に沿って結球葉まで至るものもあります。また、褐変部位は、クラウン部分の約半分に偏っており、症状が進むにつれて、全体に拡がります。

土壌中に肉眼では見えない小さな微小菌核、暗褐色の休眠菌糸体、厚壁胞子といった耐久体で生存し、伝染源となります。根あるいは地際部から侵入し、導管を通って増殖します。一般的には田畑輪換(湛水)によって菌密度が低下すると考えられますが,湛水期間が短いと死滅までには至りません。

   
圃場での発病状況
レタス内部の髄部褐変

3 ピーマン炭疽病

この病気は日本で元々、糸状菌(カビの仲間)によって引き起こされる病気として知られていましたが、新しい病原体であるColletotrichum scovilleiという菌によって引き起こされることが確認されました。果実表面が直径5~30mmの円~楕円形に陥没し、灰褐色、後に同心円状の菌そうに覆われ、オレンジ色の分生子塊が形成されます。

ピーマンの葉の上に生息しているか、罹病した果実の残さなどを含んだ土壌中の菌が雨滴とともに飛び散り、菌の分生子(胞子)が発芽し、侵入・感染します。気象観測データからのシミュレーションにより感染好適日を見極め、的確な薬剤散布を行うことで、防除は可能です。

   
炭疽病に罹ったピーマン果実
ピーマン炭疽病甚発生圃場