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私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は農業技術センター 研究員 矢崎雅則が担当します。

タマネギの健苗育成と灌水作業の省力化

兵庫県のタマネギ生産量は約9万トンと全国第3位の産地で、大部分が淡路島で生産されています。タマネギ栽培は9月下旬の播種作業から始まり、その後2ヶ月以上育苗され、冬期に圃場に定植されます。良い苗を作ることは良いタマネギを収穫するための第一歩なのですが、近年の気候温暖化によって特に機械移植用の苗の質が低下するケースが増えています。昔に比べて苗が徒長しやすく、機械移植用の直立した苗にするための剪葉作業の回数が増えて細菌性病害が誘発されてしまいます。また、暑い時期のホースを引っ張っての頻繁な灌水は、体への負担も大きいものがあります。

そこで、苗の徒長を抑えて剪葉回数を削減することと灌水作業を省力化することを目標に、自動タイマーを用いた底面給水育苗技術を検討しました。

【技術の概要】

苗床圃場に畝を立て、ビニール、給水マット、透水防根シートを敷き重ねます。その上に灌水チューブを敷設し、チューブに沿って育苗トレイを並べます(図1、写真1)。使用するトレイや培土、追肥用の肥料は慣行栽培と同じものです。灌水は、自動タイマーを利用して1日1~2回行います。チューブに水を通すとマットに水がしみ込み、トレイ底面の穴から水が吸い上がり苗に給水される仕組みです。

   
図1 底面給水育苗の模式図
写真1 底面給水育苗及び慣行栽培の様子

品種は中生「ターザン」を用いました。

追肥は、慣行栽培と同様に粒状化成肥料をトレイに散播します。1回当たり窒素量で0.75g/トレイが目安です。底面給水育苗では、基肥を入れた畝にトレイを置く慣行栽培(根はトレイの下から出て畝内に伸びる)と違って、トレイに詰めた培土だけで栽培するため慣行栽培に比べて窒素総量が少なくなります。そのため、追肥回数を慣行と同じ3回(播種30日後から約2週間おきに施用)とした標準追肥区に加えて、追肥回数を5回に増やした多回追肥区(播種20日後から約10日おきに施用)を設定しました(表1)。

   

【成果】

生育だけを見ると慣行栽培の苗が最も太く生育が進んでいるのですが、育苗期間中に3回剪葉を行い、毎日の灌水にも多くの労力がかかっています。

底面給水標準追肥区では、草丈が10㎝程度と低く細い苗になりました。降雨によって肥料分が溶脱したためと考えられます。機械移植しましたが、補植が多く必要になり労力がかかりました。

底面給水多回追肥区では、追肥の手間が若干増えますが、標肥区より生育が大きく進み慣行栽培に近い太さになりました。草丈も19㎝と低く抑えられて剪葉も必要なく、機械移植は正常に行うことができました(図2、写真2)。

   
図2 育苗方法の違いが葉鞘径、草丈に及ぼす影響
写真2 定植時の苗の様子

底面給水育苗は、資材費としてシートや灌水チューブ等が必要になるので慣行栽培に比べてトレイ90枚(本田10aに必要な苗の枚数)あたり1万円程度高くなりますが、剪葉作業や毎日の灌水作業が大きく軽減されるため、導入するメリットは大きいと考えています。