酒米新品種の育成と輸出用新製品の開発支援について
1 背景
兵庫県には山田錦をはじめとする酒米品種が21種類あり、品種数、栽培面積ともに全国1位で、全国有数の酒米産地です。しかし、近年の地球温暖化など気象変動の影響により、倒伏や白未熟粒などの障害粒の発生が多くなり、酒造りにとって重要な消化性(米の分解)や心白の発現が低下するなど、品質低下が問題となっています。そこで、当センターでは気象変動や病害に対応した高品質な酒米新品種「兵庫錦」「Hyogo Sake 85」を育成しました。
日本酒の消費動向は、国内消費がやや低迷していますが、日本酒の輸出が右肩上がりで、さらなる需要拡大に期待が集まっています。
2 目的
県北部、県南部地域に酒米新品種を導入し、栽培技術を開発し、酒米生産を安定化することにより地域の活性化を目指します。また、新品種を用いて、酒造メーカーで試験醸造を行い、成分分析や嗜好調査を実施し、海外輸出向けの醸造コンセプトを作成することで、日本酒新製品の開発を支援します。出来上がった日本酒新製品を世界へ発信することで、地元での酒米生産や酒蔵からの需要拡大に貢献したいと考えています。
3 研究の紹介
①品種の特徴(写真1)
「兵庫錦」は「山田錦」の草丈を短くして耐倒伏性を高めた、県南部向けの晩生品種であり、2009年に育成しました。高精白(※米を磨く割合が高い)できるため、大吟醸・吟醸向けの品種です。
「Hyogo Sake 85(ヒョウゴ・サケ・エイティファイブ)」は県北部向けの極早生品種であり、2017年に育成しました。高精白しなくても良質な製品ができるため、純米酒向けです。海外に向けて酒どころ“兵庫”をアピールするため、全国で初めて、品種名を「ローマ字表記」としています。
②酒米の生産安定と地域の活性化の取組
県下4普及センター(新温泉、朝来、丹波、龍野)の協力のもと、「兵庫錦」はたつの市、朝来市で、「Hyogo Sake 85」は丹波市、養父市、新温泉町で現地試作を行っています(図1)。生産された酒米は酒造メーカー7社((株)本田商店、(株)下村酒造店、(株)安福又四郎商店、田治米(名)、此の友酒造(株)、香住鶴(株)、山名酒造(株))で輸出向けの日本酒新製品で使用されています。酒造メーカーは酒米生産地の近隣に位置している場合が多く、新品種の生産安定を通して地域活性化に繋がると考えています。
③輸出対象国・地域の選定と日本酒の市場調査と嗜好調
酒造メーカー7社に輸出対象国を聞き取り調査した結果、香港、欧州が主要な国・地域であることが分かりました。香港及び欧州で日本酒の市場調査の結果、香港では純米大吟醸酒と大吟醸酒の取扱いが圧倒的に多く、一方、欧州では普通酒、純米酒の割合が高い結果になりました(図2)。また、香港、欧州のソムリエ、バイヤーなど有識者を対象に嗜好調査を行った結果、香港では吟醸香が高く、やや甘みがあるものが好まれることが分かりました。一方、欧州では古酒の他、本醸造、純米酒、吟醸、大吟醸など多様な酒質が好まれる傾向でした(表1)。以上のことから、「兵庫錦」は高精白が求められる香港向け、「Hyogo Sake 85」は高精白がそれほど求められない欧州向けであると考えられました。
④輸出用の日本酒新製品の開発
以上の情報を参考に輸出用日本酒のコンセプトを作成し、これをもとに合計7種類の日本酒新製品(Ver.1)が完成しました(写真2-1、写真2-2)。これらは、2018年8月に香港の複合的PR施設「Sake Central」で、有識者による嗜好調査を行いました(写真3)。現在、この結果から、現行製品の評価と改善策を抽出し、輸出用日本酒コンセプトのアップデートを行い、2018年度末に新製品(Ver.2)が完成する予定です。
⑤酒造メーカーからの意見
酒造メーカー7社から酒米新品種及び研究取組について聞き取りをした結果、①「山田錦」の血統を持つ新品種として新たな可能性を感じる、②酒造特性も優れており、輸出用の日本酒新製品として期待しているという意見を頂いています。
⑥今後の展開
開発した酒米新品種と日本酒新製品をさらにブランド化するためには、ワイン分野で有名な「テロワール(土地の気候、風土と葡萄生産)」という考え方を活用したいと考えています。新品種育成の歴史、各地域における酒米生産の歴史、日本酒醸造に関する酒造メーカーの「ストーリー」を探し、QRコードなどでその情報を盛り込み、酒米新品種と新製品に融合することで、生産者や杜氏の思いが消費者にしっかりと伝わり、さらに「兵庫の酒米・日本酒」が世界へ向けて発信でき、これらを通した地域の活性化が可能になると考えています。