トップページへ

私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は農業技術センター 主任研究員 望月 証が担当します。

1) 農薬の研究って?

私の研究は、主に農薬の動態の研究です。農薬と聞くと、どんなイメージを持たれるでしょうか。生産者は、虫や病気が出たときに、その被害を減らすための心強い味方と思っているかもしれません。しかし、大多数の消費者は、生鮮野菜や果物に含まれている残留農薬として、恐いイメージがあるでしょう。その残留農薬は、食品衛生法という法律の中で超えてはいけない農産物ごとの濃度(一般に「残留農薬基準」と呼ばれる)が決められています。その農産物の基準を超えないように、農薬の使い方が決められており、農薬取締法という法律の中で、農薬のラベルに詳細に記載するように定められています。これほど管理された物質はほかにあるのか、という程厳しく規制されています。

例えば、農薬の使い方はラベルに次のような記載があります。
「○○(作物)の△△の虫(病気)に□□倍に薄めて、収穫の◇◇日前までに××L/10a散布する。」

通常は市販農薬のラベルに上記を記載した表が載っています。農薬のラベルはただのラベルではなく、農薬を使うため守るべき約束事です。ここまで細かく使用方法が書いていると、変更する余地はありません。つまり使い方は決められているので、そこは研究して、簡単に変更するという訳にはいきません。私ができる研究は散布した農薬がどこにどのくらい存在するか、を調べることとなります。

どこにどのくらい存在するか、を調べる時、水や土壌など環境に残っている農薬濃度を調べることも多いです。そうすると、環境基準、土壌水道水質基準、排水基準、農薬の登録基準・・・、など多くの基準と向き合いながらの仕事となります。

作物に存在する農薬は、出荷する段階まで生長すると、農薬残留基準の規制が関係してくることとなるため、基準を超過してないことを確認することとなります。もちろん通常の栽培管理では基準を超えないように使用方法がつくられているため、超過することはありません。しかし、使用方法は決められているが、その後の栽培管理は、生産者が置かれている状況によっては異なります。当然ではありますが、生産者は品質が良い作物を作るためや省力化のためなど、農薬とは関係のないところで栽培管理の方法を決めることがあります。そうすると通常と異なる栽培管理では基準を超える可能性も考えられます。「通常と異なる栽培管理」とは、なんともあいまいなものではないでしょうか。生産者の不安の元となります。栽培管理の農薬残留への影響に確認し、基準値超過を未然に防ぐために、様々な研究をしています。

   

天敵を除く農薬の成分は500種類ほどあり、すべてを調査することは不可能です。そうすると、どの農薬を研究対象とするか、となると、まずは生産現場で使われる農薬のうち、水や油への溶けやすさが違うものを選んで試験を実施することとなります。今回、栽培管理の中で基本的な散水や光(遮光)の影響を調べた事例を紹介します。

2) 試験例

(1)散水の影響

実際の栽培状況で通常の散水がどの程度影響を及ぼすかについて紹介します。散布した農薬に対して散布直後の降雨等の影響は、防除効果を中心としてこれまで多くみられます。ここでは、施設栽培における自動散水による灌水が、コマツナの農薬残留にどの程度影響を及ぼすかについて紹介します。ある程度生長したコマツナに、ラベルに記載された倍率で希釈した農薬を約200L/10a散布しました。散布7日後の農薬濃度を、無散水のものを100%として、どの程度散水で減少するかを図示しています(図2)。散水は農薬の減少にかなり影響することが分かります。しかし、水への溶けやすさの順に減少しておらず、流れ落ちるというより別の要因のようです。

   

(2)光(遮光)の影響

次は、光の影響です。施設のコマツナ栽培において遮光資材がどの程度農薬の残留、消失に影響するかを検討しています(図3)。散水試験に用いたA,C剤を対象として農薬処理7日後の農薬の濃度を遮光なしの場合を100%として表しています。

遮光率の高い資材を7日間施設に設置していると、農薬の濃度が1.4倍から2倍程度になることが分かります。近年、夏期の施設内の高温による生産物の品質低下防止や作業の効率化を目的に、栽培施設の屋根を遮光資材で覆う事例が多くなっています。散水に比べて直接的ではないので、気にかけていない生産者が多いかもしれませんが、遮光資材の利用で農薬の減少が少なくなり、結果的に遮光なしの場合より高濃度となります。

   

3) 最後に

心配になる生産者や消費者がいると困るので、はっきりお伝えしますが、これまで示した散水や光(遮光)の結果は、それぞれどの試験区もコマツナの残留基準値を超過してはいません。しかし、それぞれが組み合わさると、どうでしょうか。もちろん、現場の栽培管理では、その時の気象も含めてもっといろいろなものが複雑に組み合わさっているため、一概に言えないことが多いです。しかし、このような個別の栽培管理が作物の農薬動態にどのように影響があるかを今後もできる限り確認し、組み合わさった現場で少しでも理解しやすいものに解きほぐしていければ、と考えています。

私の研究は、広く、強くアピールすることはありません。しかし、地道に伝えることで兵庫県農業の下支えに必要な事であると考えています。