地場種苗を活かしたマガキ養殖
兵庫県では昭和50年代後半以降、播磨灘北西部を中心にマガキ養殖が行われるようになり、養殖規模の拡大が続いています。従来からさかんに養殖が行われていた赤穂市、相生市、たつの市、姫路市の6漁協に加え、平成30年度には高砂市の伊保漁協でも本格的なマガキ養殖が始まっています。県下全域でおよそ650台のカキ筏があり、年間約2,000トン(むき身換算)のマガキが生産されています。
養殖に用いるマガキ種苗(ホタテガイ殻にマガキ稚貝を付着させたもの)は、採苗後に約10カ月間、抑制棚での管理が必要ですが、本県には抑制棚を設置できる干満差の大きい海域がほとんどありません。このため、養殖用種苗のほとんどは県外から購入しており、供給元の採苗不調が起こるとたちまち種苗が確保できなくなってしまいます。
また、最近は従事者の高齢化が進み作業効率の低下や、カキ剥きにかかる労働力の不足による生産効率の低下がみられるようになってきました。
このような状況のなか、平成30年度より、①天然採苗によって得られた地場種苗を用いて、②抑制を行わない新たな養殖方法により、③殻付きカキとして出荷する、という、収益性の高いマガキ養殖システムの開発をめざした研究を行っています。
①天然採苗によるシングルシード採苗手法の確立
赤穂市漁協坂越支所および室津漁協の地先漁場で天然採苗を行うにあたって、マガキ浮遊幼生の出現が確認された8月初旬に、A:野菜カゴ(14.0 L)にメッシュ強力網を挟んだ独自開発の採苗器、B:野菜カゴ(14.0 L)に両端を切り落としたペットボトルを詰めた採苗器、C:MULOT社製クペルを1/2の長さ(23枚)にしたもの、D:SEAPA社製600シリーズバスケット(6 mmメッシュ)にケアシェル1 Lを入れた採苗器、の4種類を設置しました。
8月2日に設置した採苗器を約40日後の9月14日に取り上げ、それぞれの採苗器で採苗できた種苗数を比較したところ、B:野菜カゴに両端を切り落としたペットボトルを詰めた採苗器では1基あたり3,000個以上の種苗が得られたのに対し、A:野菜カゴにメッシュ強力網を挟んだ独自開発の採苗器およびC:MULOT社製クペルを1/2の長さにしたものでは、1,000個前後、D:SEAPA社製600シリーズバスケットにケアシェルを入れた採苗器では10個以下の種苗しか得られませんでした。
これらの結果から、B:野菜カゴに両端を切り落としたペットボトルを詰めた採苗器で、シングルシード採苗が効率的にできることがわかりました(図1)。
②地場種苗を用いたシングルシード養殖試験
得られた種苗を用いて、赤穂市漁協坂越支所ではカキ筏から垂下したバスケットと丸カゴに2~3週間ごとに入れ替えながら育成し、室津漁協では延縄施設に垂下したSEAPA社製バスケット(800シリーズ、12 mmメッシュ)で育成するという方法で養殖試験を行いました(図2)。
概ね出荷サイズまで成長した1月下旬の時点で、それぞれの生育状況を比較したところ、赤穂市漁協坂越支所では成長は早いが殻幅がやや小さい傾向がみられ、室津漁協では殻幅は大きいが成長はやや遅いという傾向がみられました(図3)。これらの差は、養殖試験を行なった漁場環境の違いや養殖方法の違いによって生じた可能性が考えられました。
③地場種苗シングルシードマガキの試験販売
平成30年度に行った天然採苗試験で多くの種苗がとれた赤穂市漁協坂越支所では、3月以降、オイスターバー向けの仲買業者へ試験販売を行い、高い評価を得ることができました。また、今後はふるさと納税の返礼品としての販売ができるよう、手続きをしているところです。一方、室津漁協では、平成30年度に採苗できた種苗が少なかったことから、試験販売には至りませんでしたが、生産されたマガキを4月に開催されたカキ養殖セミナーで披露したことをきっかけとして、参加者からの引き合いがあり、今後の販売に向けての期待が高まっています。
今年度以降は天然採苗および試験養殖の規模を拡大するとともに、形状や身入り、味覚などを分析することで一般的な吊線式養殖のマガキとの差別化を図り、効果的な販売方法をみつけていきたいと考えています。さらに、地場種苗の天然採苗、シングルシード養殖、殻付きカキの販売という一連の養殖システムを構築し、収益性の高い新たなマガキ養殖のビジネスモデルを提示することを目標にして、研究を続けることにしています。
この研究は農研機構生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」の支援を受けて実施しています。