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私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は農業技術センター 研究員  冨原 工弥が担当します。

リバイバル害虫「シロイチモジヨトウ」の防除に向けた取り組み

人間界でタピオカミルクティーブームが何度か繰り返されているように、農業害虫の世界にも流行り廃りがあります。「ここ数年、〇〇が多いなぁ」とか「あんなに困っていた□□はどこにいったのだろうか」とか。そのような流行り廃りの原因として、栽培品目や作型の変更などの耕種的要因や、新規殺虫剤の普及といった化学的要因、多量飛来や薬剤抵抗性などの生物的要因が考えられます。ハスモンヨトウやコナガのように毎年発生するメジャー害虫と違って、こういった害虫は油断した頃にやって来るため、思わぬ被害につながることがあります。このように突如として再多発し、被害をもたらす「リバイバル害虫」として、ここ数年、シロイチモジヨトウが大きな問題となっています。

シロイチモジヨトウは野菜類や花き類等、幅広い農作物を加害する農業害虫として世界中に分布している蛾の仲間です(図1)。

   
図1 シロイチモジヨトウによるねぎの被害(左)と幼虫(右)

日本では1980年代前半に多発して広く知られるようになり、本県でもほぼ同じ時期に県中部~南部のねぎやカーネーションを中心に大きな被害がみられました。その後、しばらく多発傾向が続きましたが、1990年代前半にかけて徐々に発生が終息していきました。

それ以降、約25年間目立った発生が見られなかった「シロイチモジヨトウ」が2016年頃から再び西日本で広域的に同時多発しています。本県では淡路地域を中心に多発生がみられ、ねぎやキャベツ、カーネーションなどで毎年のように大きな被害が出ています。

本種の防除が困難である要因の1つとして、殺虫剤の効果が低いことが挙げられます。ねぎほ場で採取した個体に対して、殺虫剤の効果を検定したところ、それまで現地で用いられてきた殺虫剤のうちの多くについて、効果が低いことがわかりました(図2)。

   
図2 シロイチモジヨトウ3齢幼虫の各種殺虫剤に対する死虫率(2017年 南あわじ市)

各殺虫剤の効果の傾向は他府県と類似している点が多く、特定の感受性を持った個体群が広域的に飛来し、各地で同期的に被害をもたらしている可能性が考えられています。

過去の多発時にも、有効な殺虫剤が少なく、その傾向が各地域で類似していたことが報告されており、本種の多発には、各殺虫剤の効果の低さと広域的な移動が関連していることが推察されます。

殺虫剤単独での防除が困難である以上、今後は殺虫剤のみに依存しない技術を積極的に導入していく必要があります。その1つとして交信かく乱剤の利用が挙げられます。交信かく乱剤とは、昆虫の雌が放出する性フェロモンを人工的に合成した資材で、ほ場内に多数配置すると、雄が雌のもとにたどり着けず交尾が阻害され、産卵数を減らす効果があります(図3)。

作物への残留がなく、抵抗性を獲得するリスクも低いため、環境にやさしい農業の推進の観点からも非常に有効な防除手段です。

2018年に実施した露地ねぎにおける新規剤型の交信かく乱剤の試験では、従来の半分の設置数で、高い交信かく乱効果と被害抑制効果を得ることができました(図4、図5)。

   
図3 ねぎほ場に設置した交信かく乱剤
図4 交信かく乱剤処理による性フェロモントラップへの雄成虫の誘引数の比較
図5 ねぎにおけるシロイチモジヨトウによる被害株率の比較(連続した200株を1ブロックとして、9ブロック(合計1800株)を圃場内に一様に設定し、被害株数を調査した 2ほ場平均)

交信かく乱剤は設置面積が小さくなるほど効果が不安定になりやすいため、現在、光防除技術との組み合わせなど、より小面積でも効果が安定する設置方法を検討しています。

今後も虫害担当の研究員として、シロイチモジヨトウのようなリバイバル害虫の発生を早期に予測できる予察方法を開発するとともに、環境にやさしく現地にも導入しやすい汎用性の高い防除技術の開発に取り組んでいきたいと思います。