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私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は北部農業技術センター 畜産部 研究員 吉田 裕一が担当します。

遺伝子情報を活用した但馬牛の改良

近年、遺伝子解析技術は進んできており、現在ではゲノム情報の活用が検討されています。ゲノム情報とは、生物が持つ遺伝情報全体を表す言葉です。遺伝情報は、DNAに記録された4種類の塩基(A:アデニン、T:チミン、G:グアニン、C:シトシン)の配列によって決められていますが、個体によりその配列が異なることが分かってきました。この配列の違いを1塩基多型(SNP)といい、このSNP配列をゲノム情報として活用しています。本県では、①「ゲノム育種価」の算出、②遺伝的多様性の確保、③遺伝的不良形質の排除の3項目についてゲノム情報の活用を検討しています。

①「ゲノム育種価」の算出

現在、但馬牛の改良は、枝肉成績と血縁情報を用いて推定される遺伝的な能力である「育種価」を用いて進められていますが、枝肉成績とゲノム情報を用いて推定されるのが「ゲノム育種価」です。ゲノム育種価の算出方法は、図のとおりです。

   
図1 ゲノム育種価の算出方法

枝肉6形質(枝肉重量、ロース芯面積、バラ厚、皮下脂肪厚、推定歩留、脂肪交雑)について種雄牛のゲノム育種価と育種価の相関を調べたところ、H29年度では、それぞれ0.75、0.79、0.65、0.47、0.70、0.86となりました(表)。基礎データのサンプル数の増加にともない、相関係数は上昇しているものの、他道県と比較するとやや頭打ちになっています。これは、本県が、全国でも唯一県外から種牛を導入しない閉鎖育種という手法をとっていることから、他道県の黒毛和種とSNP配列が異なる部分が多いにも関わらず、基礎データのほとんどが、本県以外から収集されているため、ゲノム育種価推定に利用できるSNP型が少ないことが理由にあげられます。大多数が県内肥育され、育種価推定に必要なデータがほぼ全て集まる本県において、従来の育種価の精度は極めて高く、種雄候補牛の早期選抜など特殊な場面以外ではゲノム育種価を活用した改良の場面がないことから、今後利用法も含めて検討が必要だと考えています。

   
表1 解析頭数によるゲノム育種価と育種価の相関

②遺伝的多様性の確保

閉鎖育種を行っていると、遺伝的多様性が失われる危険性があります。遺伝的多様性の減少は、遺伝性疾患の発生、改良限界の早期化などを招き、育種上極めて重大な問題となります。

約2,000頭の但馬牛のゲノム情報を利用し、主成分分析で種雄牛を分類してみると図2と表2のような5つのグループに分けることができました。今回の分類方法では飼養頭数の少ない系統については、解析方法も含めて検討が必要と考えています。

   
図2 SNPsによる但馬牛種雄牛の分類
表2 遺伝子情報(SNPsデータ)による分類と血統およびGD法による分類の関係

③遺伝的不良形質の排除

種雄牛や繁殖雌牛が遺伝的不良形質を発症させる変異遺伝子を持っていれば、変異遺伝子が子へ遺伝してホモ化することで、その子牛が死ぬといった経済的損失を受ける可能性があります。ゲノム情報を活用して、SNP型の頻度調査を行うことで、遺伝的不良形質を発症させる遺伝子を予め特定することができ、それを排除することが可能になります。現在は、いくつかの候補有害変異が見つかってきており、その原因遺伝子の特定を進めています。

また、家畜保健衛生所と協力し、原因が特定できていない異常産や虚弱子牛の検体を採材し、遺伝子検査による原因の特定に努めています。

このような試験研究を行い、但馬牛の改良に貢献していければと思っています。