トップページへ

私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は但馬水産技術センター 研究員  田村 一樹が担当します。

フロンティア調査で保護区域の効果を把握!

但馬地域の海の幸と言えば、何を思い浮かべますか?なんといってもズワイガニですよね!但馬地域を含む山陰地方では『松葉ガニ』と呼ばれ、但馬地域の基幹漁業である沖合底びき網漁業において水揚げ金額の半分以上を占める重要な魚種となっています。このズワイガニは『TAC』という年間に漁獲可能な量を定める制度の対象魚種となっており、本種の資源を継続的に利用できるよう資源管理がなされています。また、TAC制度以外にも、禁漁期間を設けたり、ズワイガニ自体を守り育てるために魚礁が設置されたりしています。

   

今回は当センターが行っている『魚礁が広範囲に整備された保護区域のズワイガニ調査(通称、フロンティア調査)』についてご紹介させていただきます。そもそも魚礁とは、水産生物を集めて漁獲の増大を狙ったり、水産生物自体を守り増やすことを狙った人工構造物のことを指します。当センターの目の前に広がる但馬沖海域から島根県の浜田沖海域にかけてズワイガニ、さらにはアカガレイの資源増大・保護を目的とし、平成30年度末時点において計22地点の保護区域が水産庁直轄事業(フロンティア漁場整備事業)によって整備されています。『フロンティア』には国境、辺境、未開拓領域という意味があります。これらの保護区域は、かつて前例のなかった深海に整備が開始されました。そこで、『未開拓の深海への漁場整備・調査』という意味合いで、フロンティアという言葉が使われているわけです。これらの保護区域について、兵庫・鳥取・島根の3県が業務委託を受け毎年調査を実施しています。

保護区域は全て2km四方となっており、魚礁は外周には100m間隔、内部には200m間隔で設置されています。意外と間隔が広いように感じますが、水深が200m以上の海底に向けオッタートロールという大型の網を降ろし、魚礁と魚礁の間を曳くなど到底無理な作業です。そこで、フロンティア調査ではカニ籠調査と小型桁網調査という2種類の方法によって実施しています。

カニ籠調査は一本のロープに多くの籠網を連ねた漁具を使用します。餌となるサバを籠の中に取り付けて保護区域内に生息するカニを漁獲し、その漁獲数から保護区域内全体に生息するズワイガニの密度を推定しています。各魚礁の設置位置の情報は把握していますし、沈めて揚げるだけなので魚礁に引っ掛かってしまうリスクは低い(ゼロではありませんが・・・)という利点があります。ただし、カニ籠では子どものズワイガニが漁獲されにくい、アカガレイはサバを餌としないので漁獲できないといった欠点があります。そこでこの欠点をカバーするために実施するのが小型桁網調査です。この調査はソリのように海底を滑走できる幅1.6mのフレームに網を取り付け、保護区域内を曳網し、子どものズワイガニ、アカガレイを狙って漁獲します。小型の漁具とはいえ、網を曳く以上、魚礁に引っ掛けてしまうリスクはカニ籠調査に比べはるかに高くなるため、毎回手に汗握る調査となっています。これらの調査を平成20年度から継続して実施しており、保護区域を整備する前と比較すると保護区域全体でズワイガニが2.5倍、アカガレイが3.6倍増加していることが分かりました。また、これら2魚種以外にも沖合底びき網漁業にとって重要な魚種であるホッコクアカエビが特異的に蝟集している保護区域があることも明らかになっています。

   

当センターではフロンティア調査以外にもズワイガニ、アカガレイ、その他多くの魚種を対象とした調査を実施しています。今後もこれら資源がどのような状況に置かれているかを調査し、漁業者の方々にとって有益な情報を発信していきます!