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私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は農業技術センター 農産園芸部 主任研究員 渡邉 圭太が担当します。

環境をコントロールして植物を絶好調に!環境制御技術の開発

皆さんは「環境制御」という言葉をご存じでしょうか?なんだか堅苦しい漢字が並んで、いかにも難しそうです。定義としては「モニタリング結果を踏まえ機器を制御し、栽培環境を最適化することにより植物の生育・収量を最大化すること」だそうです。余計分かりにくいですね。

つまり、いろいろな機械を使って温室内の環境をコントロールし、植物にとってベストなコンディションを作りだして植物を絶好調にするのが環境制御です(図1)。

コントロールする環境として温度や湿度、光の強さや炭酸ガス(CO2)などがありますが、今回は炭酸ガスの制御を例として、私の試験研究内容を紹介します。

   
図1 環境制御の考え方

【トマトが20%増収!炭酸ガスの変則施用】

①炭酸ガス施用とは?

植物は水、光、炭酸ガスから光合成を行い、糖(乾物)を作り出します。このうち水は灌水から、光は太陽から、炭酸ガスは外気から供給されます。外気には炭酸ガスが400ppm(0.04%)含まれますが、閉め切られた温室内ではあっという間になくなってしまいます。そこで、外気以外からも炭酸ガスを供給するのが炭酸ガス施用です。灯油やLPガスを燃焼させて炭酸ガスを発生させたり(図2)、炭酸ガスボンベから温室内に直接ガスを吹き込む方式もあります。

   
図2 LPガス燃焼方式の炭酸ガス発生装置

②変則施用で効率的に増収

一般的な炭酸ガス施用では、温室内の炭酸ガスが不足しないよう、外気と同じ炭酸ガス濃度である400ppmをキープします。これにより光合成量アップ→乾物生産量アップ→収量アップにつながります。さらに炭酸ガスの施用濃度を上げればより一層の増収効果が期待できますが、換気の際に炭酸ガスが漏れ出てしまい、効率が悪くなります。

そこで、換気中は外気並み(400ppm)、それ以外は高濃度(800ppm)と条件を分けて施用する「変則施用」について、トマトで実験を行いました。

ビニールハウス3棟をそれぞれ「変則施用区」、常に外気と同じ濃度の炭酸ガスを施用する「慣行施用区」、炭酸ガス施用をしない「無施用区」として管理しました(図3)。

   
図3 炭酸ガス施用の状況

2019年8月にトマト「ハウス桃太郎」を定植して11月から炭酸ガス施用をスタートし、翌年2月まで栽培しました。なお、炭酸ガス施用区では炭酸ガス施用によりトマトの吸水量が増加するため、無施用区より灌水量を10%増やして管理しました。

その結果、変則施用区では葉の光合成速度、乾物生産量、収量ともに大幅に増加し、無施用区に比べて20%の増収効果が得られました。慣行施用区でも増収効果がみられましたが、変則施用区がこれを上回りました(図4,5)。

   
左:図4 乾物生産と光合成速度への影響、右:図5 収量と果実糖度への影響

このように、ハウスの環境をコントロールし、植物にとってベストなコンディションを作り出すことで、収量の最大化を目指すのが環境制御技術です。

今後も、生産者の所得向上や産地の活性化につながるような技術開発に取り組んでいきたいと思います。