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私の試験研究

当センターの各部署が順に担当して、特徴的な試験研究等の実施状況を紹介します。
今月は森林林業技術センター 職員 藤本千恵が担当します。

割れや変形のないスギ平角材を求めて

国土の2/3が森林に覆われている日本において、木材の自給率は何%かご存じでしょうか。一時期は、18.8%(H14)まで落ち込んでいましたが、現在は36.6%(H30)まで上昇してきました。この自給率には製材品、合板、チップなどが含まれ、日本で使用される木材全体に対しての自給率です。このうち、図1のとおり、住宅に使用される建築用材を部材ごとに見てみると、横架材(梁や桁などの横にして使用する材料、平角材(図2))は、製材(無垢材)と集成材(板などを貼り合わせて作った材料)を合わせてわずか10%の国産材率(自給率)に留まっています。

   
図1 木造軸組住宅の部位別木材使用割合(令和元年度森林・林業白書より)
図2 木造軸組構法における部材の名称(平成27年度森林・林業白書より)

国産の無垢の横架材(平角材)を使用する県内の工務店から話を聞くと、上棟後に割れが入ることがあるため、施主には割れが入ることを予め伝えて了承してもらっているそうです。また建材メーカーからは、含水率20%以下の無垢材でも、材を切って断面を確認すると、中心の含水率が40%程度と乾いていないものもあるので変形が心配だ、と言われました。無垢の横架材(平角材)には乾燥がしっかりとできていないことに起因する割れや変形に対しての懸念があるようです。

他方、戦後に拡大造林された森林は現在収穫期にあり、今後、直径が30cm以上の大径材の生産が増えることが予想されています。この大径材を有効に活用するためにも、森林林業技術センターでは、スギ横架材(平角材)の需要を増やすための研究を進めています。

スギの大径材化に伴って、図3のような2丁取りの心去り平角材の生産が可能になりました。1丁取りの心持ち平角材は表面割れが発生しやすいため、表面割れを防ぐ高温セット処理が必要になりますが、高温セット処理では内部割れが発生してしまうという欠点があります。一方、2丁取りの心去り平角材は比較的表面割れが発生しにくいため、内部割れが発生しにくい天然乾燥や中温(おおむね60~90℃)での乾燥が可能ではないかと考えています。平成30年度には人工乾燥機を更新し、スギ心去り平角材の乾燥試験に令和元年度から本格的に取組み始めました。

   
図3 心去り平角材の模式図

試験ではまず、県内でスギ平角材を生産している製材工場10社にアンケート調査を実施し、乾燥材において重視する品質を調査しました(図4)。その結果9社から回答があり、「表面割れがなく」、「含水率20%以下」で、「変形・狂いがない」材であることが出荷に際して最低限必要な品質であると分かりました。また、出荷はできるが重視する品質としては「内部割れなし」を回答した工場も6社と多くありました。

   
図4 乾燥材において重視する品質(複数回答)(回答数9)

そこで、割れや変形のないスギ平角材の乾燥を目標に、スギ心去り平角材の人工乾燥試験を実施し、変形や割れがどの程度発生するか、きちんと乾燥しているかを調べています(図5、図6)。この試験は現在も継続して計測を行っているため、ここでは含水率分布の変化のみを紹介します。

図7のように材の断面を25等分して含水率の分布を確認すると、内部まで目標含水率の20%以下になっている材もありましたが、内部に高含水率部が残っている材も見られました。例えば図8【A】の材は、断面全体の平均含水率は25.1%ですが中心部分は50%前後の含水率でした。その他にも、図8【B】の人工乾燥によって目標含水率20%に達しなかった材(平均含水率36.6%)を経過観察すると、内部の高い含水率は、4ヶ月経っても、変わらず高いままでした。

今後は内部の高い含水率が、乾燥とともに割れ・変形にどのように影響するかを調べる予定です。

   
左:図5 乾燥材の出庫の様子、右:図6 変形量の測定
   
図7 含水率分布の計測の様子
   
図8 横架材断面の含水率分布の例
※ 含水率(%)=計測時に木材に含まれる水重量(g)/水を含まない木材の重量(g)×100

スギは含水率が低いものから高いものまでばらつきが大きく、平角材は断面が大きいため、スギ平角材は均質な乾燥が難しい材料です。私は研究を始めてまだ2年目で、毎回四苦八苦しながら試験に取り組んでいます。

しかし、スギ平角材の利用促進のためには乾燥材の品質を上げることが不可欠です。割れや変形のないスギ平角材の生産手法を確立し、スギ平角材の信頼性を高めていくことが私の目標です。