ヒメトビウンカの紹介
今回は、最近、私にご縁のあった害虫のひとつであるヒメトビウンカを紹介します。
ヒメトビウンカ(写真1)はイネ科植物に生息して小麦や稲を餌としますが、減収につながることはほとんどありません。しかし、ヒメトビウンカによって媒介される縞葉枯病(写真2)は、稲に深刻な被害を与えます。
縞葉枯病は、ヒメトビウンカのみによって媒介されるウイルス病で、縞葉枯ウイルスをもつヒメトビウンカ(保毒虫)が稲を吸汁することで、稲に縞葉枯病をうつし、ウイルスを持たないウンカも発病稲を吸汁することで保毒虫になります。また、ウイルスは卵を介して次世代へ受け継がれるため、次世代も保毒虫になります。
ヒメトビウンカはイネ科雑草などで越冬するため、越冬した保毒虫が翌年の発生源となります。そのため、発病は水稲の1作期間にとどまらず、そのまま増え続けると地域的に多発・流行します(図2)。
発病した稲に治療薬は無く、発病を抑えるには媒介虫であるヒメトビウンカを防除することが必要です。一般的な防除は予防的な水稲移植時の箱施薬剤であるため、生産者の方に適切な防除判断をしていただけるよう、私たちは縞葉枯病の発生を予察※しています。
※予察:病害虫の発生状況とその後の気象条件や作物の生育条件などから病害虫の発生を推察すること。
従来は、水稲を作付け前の5月頃に小麦で発生したヒメトビウンカを調査することで、縞葉枯病の発生を予察してきました。小麦ではヒメトビウンカが多数発生して、調査が容易です。また、小麦で発生したヒメトビウンカは多くが水田へ飛来するため、水田での発病の予察に適しています。しかし、この時期は水稲の移植直前であることから、防除判断に余裕を持てないところが欠点でした。
今回、前年の秋季に水稲での保毒虫率を調査すれば、冬を越したヒメトビウンカの保毒虫率が予測できることを明らかにしました。秋季であれば、水稲でも小麦と同様に容易に調査できるのに加え、翌年の水稲の作付けまでに十分な期間があります。冬期の耕起や薬剤の手配など、防除対策ができるよう改善しました(図3)。
今後も、ヒメトビウンカと縞葉枯病の動向について、保毒虫率が高まった場合には、生産者の方をはじめ、関係機関の方にお知らせしていくことができればと思います。 なお、防除に関しては農業技術センター病害虫部(病害虫防除所)のホームページに「イネ縞葉枯れ病防除マニュアル」が、兵庫県農林水産技術総合センターのホームページに「ヒメトビウンカおよびイネ縞葉枯病の総合防除」の動画が掲載されています。ぜひ参考にしていただけたらと思います。