樹木の根の深さと倒れにくさの関係
近年、台風等の局所的で猛烈な集中豪雨による森林災害が多発しています。森林の災害に対する抵抗機能のうちの一つが、樹木の倒伏に対する抵抗(樹木の倒れにくさ)です。樹木の倒れにくさには根が関与しているといわれています。
今回は、樹木の根の深さと倒れにくさの関係について検討するために、クロマツ海岸林に、地下水位の高い試験区(海側区)と低い試験区(陸側区)を設定して調査を行いました。クロマツは、地下水位が高いと根を深く伸ばすことができないことから、地下水位の違いによって根の深さが異なる2つの試験区を設けました。
樹木の倒れにくさを調査するために、立木引き倒し試験(図1)を行いました。引き倒し試験とは、立木の幹にワイヤーを掛け、重機等で引張り、引き倒しにかかる荷重(kN)を測定する試験です。倒れにくさは、最大引き倒し荷重にワイヤー高(m)を掛け合わせた値である最大抵抗モーメント(kNm)で示しました。最大抵抗モーメントとの関係を検討するため、樹高と胸高直径を測定し、立木の地上部の指標である材積指標(樹高×胸高直径の2乗)を求めました。また、立木の地下部の様子を確認するために、海側区、陸側区から3個体ずつ選んで掘り取り、根の深さや広がりを確認しました。
海側区と陸側区のクロマツの地上部を見てみると、海側区に比べて陸側区のクロマツの樹高が2倍も大きいことがわかります(表1)。一方、クロマツの地下部は、陸側区は垂直に伸びる深い根(垂直根)を持っているのに対し、海側区は、垂直根が無く、その代わり水平方向に長い根(水平根)を持つことがわかりました(表2、図2)。これらのことから、クロマツは垂直方向に障害が無ければ、深い根を伸ばすのに対し、海側区のように地下水位が高く、垂直根を伸ばせない場合は、水平方向に根を長く多く張ることが考えられます。
海側区と陸側区のクロマツの倒れにくさを検討するため、材積指標と最大抵抗モーメントの関係を検討したところ、海側区と陸側区の材積指標と最大抵抗モーメントの関係性には違いがなく、同じ材積のクロマツであれば、倒れにくさは変わらないことがわかりました(図3)。しかし一方で、海側区は樹高が小さく、材積が大きな個体が存在しないため、海側区のクロマツは相対的に最大抵抗モーメントが小さく倒れやすい個体が多いこともわかりました(図3)。これらのことから、垂直根が発達しているクロマツ林の方が、倒れにくくなることがわかりました。
今回の報告は海岸での調査結果となりましたが、山地でも根の発達が異っていることが予想されます。また、今回のクロマツのように、垂直根の代わりに水平根を伸ばすような可変性の高い樹種もあれば、垂直根が伸ばせない環境に対応できない樹種がある可能性もあります。我々はこれからも、根と樹木の倒れにくさについて明らかにしていく予定です。