酪農(畜産)における食料自給率向上への取り組み
【背景と目的】
食料自給率を少しでも上げようと農業の各分野とも様々な取り組みがなされています。酪農ではこれまで牛乳の基となる飼料の多くを輸入に頼っていきましたが、それでは真の意味での食料自給率につながりません。また、昨年のように国際的な価格変動の影響を受けやすく、安定した経営とはなりません。
乳牛の飼料は牧草などの粗飼料と穀類などの濃厚飼料に大別され、それらを国内で確保する方策として、粗飼料ではロールラップサイレージ方式が普及しつつあり、濃厚飼料では食品製造副産物などいわゆるエコフィードの有効活用が注目されています。
そこで、当所では地域で確保しやすい自給飼料として、飼料イネとイナワラのロールラップサイレージ及びエコフィードとしてトウモロコシエタノール製造粕(DDGS)、ナタネ油粕、しょう油製造残さなどを乳牛へ給与した場合の影響を研究しています。
【方法】
乳牛8頭を4頭ずつ2組に分け、一方のグループに試験飼料を含む混合飼料(TMR)を、もう一方のグループには従来から給与しているTMRを給与し、2週間後与える飼料を入れ替えます。その間の採食量、乳量・乳成分、胃液や血液の成分などを調べ、牛の消化機能や生産性への影響をみます。
1.飼料イネロールラップサイレージ
体重と一部の乳成分(無脂固形分)が向上することから、収量アップによる生産コスト低減を図りつつ、自給粗飼料として有効活用が期待される。
2.イナワラロールラップサイレージ
比較的大量に給与しても乳生産への悪影響はなく、耕種農家との連携を図ることで、安価な自給粗飼料として利用拡大が期待される。
3.DDGS
飼料の消化効率が良くなり、乳量が増加することから、穀類に変わる濃厚飼料源として有効活用が期待される。
4.ナタネ油粕
飼料摂取量や乳量は低下しないが、一部の乳成分(蛋白質)が低下する可能性があるため、利用にあたっては他の飼料との組み合わせに注意する必要がある。
5.しょう油製造残さ発酵飼料
牛の消化機能や生産性への悪影響はなく、大豆粕や塩などとの置き換えで飼料コストを抑制できる場合は利用できる。
【今後の展望】
京阪神地区には大きな食品製造工場がたくさんあり、それらから排出される有効資源の多くが、未だ産業廃棄物として処分されています。これらの中から牛に安全に給与できる資源を掘り起こして、自給粗飼料との組み合わせなども考慮しつつ、飼料自給率向上による酪農家の生産コスト低減、ひいてはわが国の食料自給率向上に少しでも貢献できればと思います。