昆虫の行動と周囲の温度
私は現在、企画調整・経営支援部にいます。2年前まで昆虫についての研究を行っていました。最近の研究の対象はクモヘリカメムシでしたので、その虫を例として「昆虫の行動と周囲の温度」について説明します。
発育零点と発育
昆虫は私たち人間と違って、自らの体温は周囲の温度の影響を受け変温します。変温動物は各温度で発育の早さに変化が生じて、発育がストップする温度を発育零点と呼びます。これは実験室内で4~5段階の温度域で飼育をし、毎日発育の状況を観察して得られますが、クモヘリカメムシについては表1で示す数値を明らかにしました。
この虫はソメイヨシノが咲く時期(日平均気温10℃の頃)になれば、越冬から覚め、以降世代を重ねていきます。また、12月初旬頃には発育を止め越冬します。
春から秋にかけてのステージ毎の発育日数は、表1で示すA発育零点とB有効積算温度と日平均気温で求められます。
発育日数 = B:有効積算温度 ÷ (日平均気温-A:発育零点)
近年、夏の高温の影響を受け、兵庫県の南部では発育日数から考えてクモヘリカメムシは年3回発生できる年が一般的となっています。日長と産卵の条件を考慮に入れ検討する必要がありますが、斑点米の被害が恒常的に多くなったのもこの辺の影響があるのかも知れません。
身近な昆虫の発育零点
アブラムシ類の天敵として身近なものはテントウムシとナナホシテントウです。この2種の発育零点については1980年の研究で表2のような報告があり、それによるとテントウムシは卵5.4℃、幼虫5.9℃、蛹(さなぎ)8.8℃で、ナナホシテントウは卵10.8℃、幼虫10.5℃、蛹10.6℃です。テントウムシはナナホシテントウに比べ低温で活動が可能なことが分かります。実際、春先ではイチゴのアブラムシ防除にはテントウムシのほうが効果的な天敵といえます。
キャベツの害虫モンシロチョウ(幼虫の呼び名はアオムシ)についてです。モンシロチョウは蛹で越冬します。この蝶(ちょう)の蛹の発育零点は11.2℃で、卵、幼虫の発育零点に比べ高い温度です(表2参照)。春、外気温が安定した時期になってから成虫になるために、蛹の発育零点は高いのでしょうか?
桜の開花も終わり、多くの虫が活動する時期となります。虫と温度のことを考えるのも楽しいものです。